• 2008.12.25

    CSR、この一年を振り返る

    ■今年のCSR状況■

    先月の回で、「市民が選ぶCSR大賞」のことを書かせていただきました。
    今回は、その投票者が答えてくれたアンケートを元に分析をしてみたいと思います。

    ■第二回 CAMPAN CSR大賞 表彰式■
    http://blog.canpan.info/csraward_2008/

    今年のCSR大賞は、投票者が企業名などに左右されず、各社が行っているCSRの取り組みを評価できるような仕組みを導入し、結果として社員を大切にしている10名足らずの小さな会社、「有限会社 ワッツビジョン」がグランプリを獲得しました。

    ■有限会社ワッツビジョン■
    http://blog.canpan.info/csraward_2008/archive/34

    これはまさに今年のCSRを総括するものとして考えてよいと思います。
    日本における企業のCSRの取り組みは、CSRという言葉が意味する企業経営そのものの概念よりも、まず社会貢献という立ち位置から理解され、その後コンプライアンスや環境への配慮などに広がり、現在は一通りやりきった感が漂っています。

    しかし、これは大きな間違いで、足元である自社の社員へのCSRという視点がすっぽり抜けている企業がまだまだ多いのです。さらに言うと、そもそも社員への取り組みがCSRだという認識自体が不足している状態と言えます。

    これが来年、企業が積極的に取り組んでいかなければならないCSRの最後の領域となるでしょうが、それはまた、今後、詳細に検証していきたいと思います。

    今回、投票を行ってくれた市民2万人のうち、「CSRという言葉を今回の投票で初めて知った」と答えた人は実に72%にも上ります。

    投票者の職業の47%、約半数が会社員でしたが、それを踏まえると、この数値は社会人にとっても「CSR」という言葉そのものが浸透していないことを表しています。

    これは、昨年も同様の数値で、この1年、各企業のCSRの取り組みに対する熱意とは裏腹に、CSRという言葉自体は全く社会的関心事としてとらえられてこなかった、別の言葉で言えば、「CSRという言葉は市民が企業の取り組みを理解するための共通言語になってきていない」ことを意味します。

    CSRの持つ多様性や価値を考えると、この言葉が理解されていくというのは難しいような気がしています。したがって、もっとわかりやすい言葉との代替が必要なのだろうと常に思います。

    ただ、重要なことは、CSRという言葉は知らなくても、2万人が「良い企業を応援しよう」という今回の大賞の意義を受け止め、各企業のCSRの取り組みを読んで投票する、という行為を行ったという点です。社会は言葉ではなく、実態としてのCSRに確実に響いているのです。

    それでは続いて、性別や年齢、職業での違いを見ていくことにしましょう。

    ■男性「総合力」、女性「ワーク・ライフ・バランス」■

    グランプリを受賞されたワッツビジョンの取り組みが高評価だったのは特に女性層でした。それは取り組み自体が子育て支援という側面が強かったことが共感を呼んだようです。

    それに加え、女性が選んだCSR大賞という視点で見てみると、五位にサッポロホールディングスが入ってきますが、それ以外はすべて地方の中小企業で特にワーク・ライフ・バランスにエッジが効いている企業でした。つまり、女性の心に響くCSRは「ワーク・ライフ・バランス」がキーワードであると言えます。

    ただ、これに年齢という視点を加えると、同じ女性でも60歳以上の女性は関西電力など、総合的にCSRに取り組んでいる企業を支持しており、20代~30代の女性の傾向とは明らかな違いが見られたことも興味深い結果でした。

    子育てが終わった世代の女性の視点は、より大きな視点からCSRを見るようになっている、と言えるかもしれません。

    一方、男性が選んだCSR大賞は、一位が大阪ガス、二位が関西電力、三位が油伝味噌と続き、ワッツビジョンは四位と下がってしまいます。男性の場合は、総合的に色々な活動を行っている企業を評価する傾向が強いという結果になりました。

    そしてさらに、男性の場合、年齢差による投票企業のブレが少ないという点が女性との対比で見ると面白い結果です。

    職業別にみると、学生も総合的なCSRを評価する傾向が強く、パートやアルバイト、専業主婦はワーク・ライフ・バランス、そして会社員もワーク・ライフ・バランスという特徴となっていました。

    これらの分析結果から見えてくることは、CSR広報もただ漫然と広告を打ってもダメで、きめの細かいターゲットの絞り込みが非常に重要であるということです。

    B to Cの会社の場合、自社の製品やサービスの顧客層に合わせてそれを設定するというのが最も効果的なのはもちろん、さらに自社のCSRの取り組みの中でも何を見せていくかというエッジの効かせ方も大切だと言えます。

    これは、商品を売る時の広告と考え方的には同じですが、大きく違うのは、実際に物が売れたりという成果が見えないため、広告効果の測定が困難であるという点です。

    その意味で、このアンケート結果を各社の視点から分析して広告展開手法の着想を得ることはとても意味のあることだと思います。

    分析の詳細な結果については、今後、CANPAN CSRプラスというサイトでコラムとしてアップいたしますので、ぜひご参考いただければ幸いです。

    ■CANPAN CSR プラス■ 
    http://canpan.info/csr/

    ☆ここがポイント☆

    1.CSRという言葉自体の認知度は、この一年で全く上がっていない
    2.男性と学生はCSRの「総合性」、女性は「ワーク・ライフ・バランス」を高く評価
    3.CSR広報も商品の広告同様、ターゲットの設定と訴求する内容が重要