• 2010.05.15

    世界を変えるデザイン展の裏側 ~その1~

    昨年の10月、私はBOPビジネスという言葉を知らなかった。

    そんな自分が、「世界を変えるデザイン展」の主催者の一人として関わってきた。不思議なことだ。

    10月にグランマの本村くんが「町井さん、こんな企画展やりたいんです。CANPANで主催してもらえませんか?」と言って、拙い企画書を見せてくれた。(本村くん、ごめんね)

    それを見て、自分の頭の中に「リスクを取ってでもこれはCANPANがやらないといけない」と思った。

    BOPビジネスが語られる時、必ず冒頭に「五兆ドルの市場がそこにある」という文句から入る。
    そんなもの、冗談じゃない。

    40億もの人間がいて、市場規模が5兆ドルしかない現実。これこそがBOPの持つ本当の課題なのだ。

    40億人がかりでも、日本の1億人に勝てないのだ。その現実をどう考えているのか?
    5兆ドルの市場に日本企業が群がるなら、それは単なる新しい植民地支配と変わらない。ただの搾取でしかないのだ。

    そこに巨大な市場があるのではない、そこには巨大な社会課題があるのみだ。

    それを解決するために、日本人の一億人が果たすべき責任を果たすこと、これがBOPビジネスというものの本質でなければならない。

    日本は「CSR」という言葉をご丁寧に輸入して、誤って理解してしまった。

    日本に昔から存在した「企業かくあるべし」という概念とは違う言葉として理解してしまった。
    それが誤っていたからこそ、企業は自らを偽る術を身につけてしまった。

    「営利企業なので、CSRはゆとりのある時でないと。。。」

    なんのためにその会社は存在しているのか?

    そんな企業で働く社員に夢などあるのか?  働きがいは金だけか?
    ニューヨーク型資本主義こそが人をしあわせにするなんてことが幻想だとまだ気づかないのか?

    それと同じような危険が、BOPビジネスという流行りから感じられたのだ。

    「手を打つなら今しかないね。」と本村くんに言うと、彼は目を輝かせてくれた。

    「やりたいようにやっていい。責任は自分がすべて取る。」

    と言って、背中を押した。

    しかも、「この展覧会に日本財団のお金は一切使わない。すべて協賛などでやりきろう。」というハードな課題を課した。本当にひどい話だ。

    この半年、本当に色々なことで胃が痛くなることが多かった。一時はどうなることかと思って、自分で借金してでも赤字を埋めようと覚悟を決めていたこともあった。

    そして、そんな課題を抱えながらも、彼らは本当に素晴らしい企画展を、まさに手作りで作り上げてしまった。

    社会の関心の高さがその素晴らしさを物語っている。
    実行委員会のみんなのやる気と能力を信じた結果が、この展覧会に結集している。

    最近、ムーブメント、ムーブメントという言葉を良く聞く。
    だけど、この言葉はあまりに軽く使われ過ぎている。

    そして、ムーブメントとやらを創り出せそうな匂いのする人は、残念ながらほとんどいない。

    グランマの三人は、その匂いのするメンバーだ。
    だからこそ、CANPANは彼らと一緒にこの展覧会を創ってきた。

    社会起業家の価値も厳しさも彼らはよくわかっている。

    今、日本の中で感度の良い人達(特に若者の感度の良さにはあきれるほどだ。)が、この展覧会を通じてBOPビジネスに対して、色々なことを考えてくれている。

    これが、これからの日本に何かを生む土壌になるだろう。

    ようやくスタートラインに立つことができた。