• 2013.11.15

    CSR最前線 ~H.I.S.の取り組みから~

    2013年はCSRに関する国際的なガイドラインや基準について重要な動きがあった一年でした。2013年5月にはGRIによるCSRレポートのガイドラインが7年ぶりに刷新され、バージョン4(G4)として発行されました。

    ■GRI G4(日本語版)■
    http://www.nippon-foundation.or.jp/news/articles/2013/80.html

    つづく12月にはIIRCによる統合報告フレームワーク第一版の発表があります。企業の社会への役割・関わり方や持続可能な経営への関心が高まる中、世界では国連グローバルコンパクトの10原則やISO26000、そしてGRIのG4やフレームワークなど、様々なルールづくりが活発に行われています。

    日本ではG4発行に先駆けた2013年3月に企業やNPO、CSR専門家といった様々なセクターの有志が連携し「G4マルチステークホルダー委員会」が発足、私の所属する日本財団が事務局を務めさせていただき、日本での国際的なガイドラインの動きなどについて情報発信をメインとした活動
    を行っています。

    ■G4マルチステークホルダー委員会■
    http://blog.canpan.info/cosmo/archive/292

    このようなヨーロッパを中心としたCSRを取り巻く環境には大きな変化が起きており、企業にとってのCSRや社会貢献の在り方も、社会との持続可能な関わり方をどのように経営戦略に組み込んでいけるかという視点を持つための基軸として、重要な役割を持つようになってきています。

    そのような国際的な動きも踏まえ、企業の社会貢献は、寄付や社員によるボランティアというようなものから、より本業とリンクした持続可能な取り組みへと急速にシフトしています。「CSV」に関心が集まっているのもその流れを象徴していると言えます。

    そのような企業の社会貢献と本業とのリンクの事例として、今回はエイチ・アイ・エス(以下、H.I.S.)の取り組みを考えてみます。

    H.I.S.は、格安の旅行ツアーなどで有名ですが、その経営理念は「ツーリズムを通じて、世界の人々の見識を高め、国籍・人種・文化・宗教などを越え、世界平和・相互理解の促進に貢献する」というものです。

    その経営理念を最も象徴しているツアープログラムが「ボランティアツアー」と「スタディツアー」です。分野は、環境・文化保全、教育・人権・子どもの保護や災害・復興支援など6カテゴリあり、行先は内容によって国内外を含め多様です。

    世界の課題を知るために現地を訪れることは、時として人生を変えてしまうほどのインパクトを旅行者に与える場合があります。特に感受性の豊かな若い世代の場合、それが原体験となってその後の人生に影響を与えることは多くの社会起業家と呼ばれる人たちの話しを聞くと見えてきます。

    しかし、そのような地域は一人で行くには様々な危険を伴うことなども多く簡単に行くことができません。また、その地域でどのようなNPOが活動しているか、地域の生の声を誰から聞けばいいのかなど、現地でのコーディネートも大変重要です。

    H.I.S.では、日本の旅行業者としては最大数の現地事務所を持つ利点を活かし、NPOなどのステークホルダーとも連携して、このようなツアーを計画、個人が安心して参加できるツアーとして提供しています。

    これらのツアーの中で特にユニークなツアーは、「前旅・中旅・後旅」という三部構成になっているツアーです。これは、ツアーに参加する前に行き先である国や地域の情勢を知るための勉強会が事前に用意されており、その後、中旅ということで実際にツアーに行きます。そして、帰国後に行ってどうだったか、ということを旅行者同士で振り返る勉強会が後旅として用意されており、旅行を通じたネットワークも含め、様々な付加価値を生んでいます。

    H.I.S.という旅行業者にとって、このようなツアーを展開することは手間も危険も伴うこともあり、利益だけを優先するのであれば最初に回避すべきツアーです。しかし、このようなツアーを薄利でも若い人が参加しやすいよう安い価格で提供し続けようとするH.I.S.の取り組みは、それ自体が本業を通じた社会貢献と呼べるもので、学ぶべき点が多いものです。

    世界の流れを考えると、企業の社会貢献活動は今後、このような自分たちの本業を通じた社会課題の解決や未来を創るための取り組みが評価され、それらが社会や顧客からの共感を得、自社のブランディングにもつながる時代になりつつあります。

    そしてもう一つ重要なことは、このような取り組みをいかに社員とも共有できるかです。この共有によって社員の働くモチベーションもアップし、結果として組織は活性化していきます。