2013.07.04
日本取引所グループと日本財団では、2月に引き続き共同主催として、「CSR を取り巻く国際的なガイドラインのこれから」というタイトルでCSRセミナーを開催しました。
第一部(午前)ではCSR活動の方向性と今注目度の高い話題として、国連グローバル・コンパクト 代表理事であり富士ゼロックス株式会社エグゼクティブ・アドバイザーの有馬利男氏に「これからのグローバル企業に求められるCSR経営」と題してご講演をいただきました。
また、株式会社クレアン代表取締役の薗田氏、武田薬品工業株式会社コーポレート・コミュニケーション部シニアマネジャーの金田氏をお招きし、国際社会の中における各種基準やガイドライン等の動向を踏まえ、日本企業が注目していくべき点や企業の中での活用実践例についても合わせてご紹介いただきました。
第二部では、G4の改訂ポイントについてお伝えするとともに、国際的なガイドライン、基準等の策定状況を踏まえ、日本企業がどのような点について着目していくべきかについてパネリストの方々と参加者も交え、議論をさせていただきました。
会場は満席の約200名の主に上場企業CSR担当者にご来場いただき、活発な質疑応答も行われ盛況のうちに無事終了いたしました。
ご参加いただきました皆さん、ご多忙の中をご協力いただきました講師の皆さま、心より御礼申し上げます。
こちらのセミナーの詳細報告はこちらをご覧ください。
■CSR を取り巻く国際的なガイドラインのこれから開催報告書■
http://www.nippon-foundation.or.jp/news/articles/2013/img/51/03.pdf
2013年はCSRに関する国際的なガイドラインや基準についていくつか重要な動きがあります。
5月にはGRIガイドラインのバージョン4(G4)が発行され、12月にはIIRCによる統合報告フレームワーク第一版が発表される予定です。ヨーロッパを中心として規制や基準作りが活発に行われるなど、CSRを取り巻く環境に大きな変化が起きています。
日本ではG4発行に先駆けて、企業やNPO、CSR専門家といった様々なセクターの有志が連携。日本社会への情報発信と意識啓発活動を行う「G4マルチステークホルダー委員会」を3月1日付で発足いたしました。
同委員会はアドバイザーにNPO法人サステナビリティ日本フォーラムの後藤様、委員長にLRQA Japanの冨田様をお迎えし、日本財団が事務局を務めております。本委員会には、株式会社 日本取引所グループ、経済産業省、環境省、一般社団法人グローバル・コンパクト・ボード・ジャパン・ネットワーク(GC-JN)も協力団体として関わっていただいております。
去る3月15日に、日本財団ビル (東京都港区赤坂) にて同委員会の発足説明会を開催し、5月22~24日アムステルダムで開かれたGRIカンファレンス‘Global Conference on Sustainability and Reporting 2013’に23名の日本代表団を組織、参加して参りました。
今後の動きにもぜひご注目ください。
2013.05.20
近年、ソーシャルビジネスという言葉を聞く機会が増えてきた。
ソーシャルビジネスとは、主に本業を通じて社会的課題をビジネスの中で解決していこうとするビジネスのことで、事業性を確保しているという点で、いわゆる企業の純粋な社会貢献活動とは異なる。
事業性を確保すると言っても、通常の営利ビジネスとは少し違った側面はもちろんある。最大の違いは、利益を得ることが第一の目的ではなく、社会課題の解決が目的であるという点である。
もちろん企業である以上、利益を考えなければ持続性が担保できない。ソーシャルビジネスとは、この二つを両立させるビジネスとも言え、単純に利益を上げるよりも難易度は高くなる。
そんなソーシャルビジネスを展開する上で重要なことは、様々なステークホルダーとWIN-WINの関係を構築しなければビジネスモデルがそもそも作れないということ。
近年の社会課題は複雑で、一社でリスクを取ってさらに利益を上げられるほど簡単ではない。したがって、公的な支援も含めた様々なノウハウを持ったステークホルダーと協働しなければならないことになる。これら、独特のビジネススキームをきちんと設計できるかがソーシャルビジネス成功の鍵となっていく。
このソーシャルビジネスの取り組みを行っている会社の中でも、世界的にもその存在が知られている「株式会社 雪国まいたけ(以下、雪国まいたけ)」の事例を考えてみたい。
雪国まいたけは、資本金約16億円で新潟県魚沼市に本社を持つ、「まいたけ」や「えりんぎ」、「もやし」などの生産販売などを行っている会社である。2011年より世界の最貧国の一つと言われるバングラデシュで「Mungbean Project(緑豆プロジェクト)」というソーシャルビジネスのプロジェクトを展開している。
このプロジェクトの推進母体は、雪国まいたけとノーベル賞受賞者であるムハマド・ユヌス博士率いるグラミングループのグラミン・クリシ財団、九州大学との三者により設立された合弁会社「グラミン雪国まいたけ(Grameen Yukiguni Maitake Ltd. 以下、GYM)」。
GYMの特徴は、ユヌス・ソーシャルビジネスのポリシーに基づき、利益配分は行わず、その利益は次の社会的な事業に回していくというやり方をとっていることである。
そのようなGYMが手がける緑豆プロジェクトは、バングラデシュと日本の双方、そしてこのビジネスに関わっているすべての方々にとってWIN-WINのビジネスモデルとなっている。
まず、バングラデシュにとって一番のメリットは雇用創出。本プロジェクトでは、豆の製造者である契約農家、できた豆を選別する作業者、そしてエンドユーザに売る販売者という三者に対し雇用の機会を提供している。
日本にとっては、安定的供給、価格上昇、安心安全という3つのリスクを回避できるという点が重要である。緑豆は発芽すると「もやし」になるが、この緑豆の約90%は中国からの輸入に頼っている。しかし価格は4年前と比べて2倍以上も上がっており、この価格はさらに上昇していくと予測されている。
このまま中国からの輸入に頼っていると、私たちにとって安価で栄養豊富な野菜の代表格であるもやしは高価な野菜になってしまうかもしれない。仕入れ先の多様化は日本にとって重要な問題である。
そして、近年中国などで特に問題になっている農薬など、食べている野菜は安全なのか、という点においても、雪国まいたけが行っている「雪国まいたけ安全システム」が活用できることから安心できるシステムが構築されている点も重要である。
本プロジェクトの責任者で雪国まいたけの上席執行役員である佐竹右行氏は、「さらに日本の優れた農業技術をバングラデシュの農民に伝え、量と質の向上も図っています。農村地域で付加価値が高く高価格の作物を農民が栽培することで現金収入も増えます。現在、約7,500人の契約農民が雇用され、約1,500トンの収穫があり、そのうちの約300トンが日本への輸出向けです。」と語られている。
単に貧困国であるバングラデシュを先進国である日本がサポートするのではなく、日本にもその成果物を輸出してもらうことで、お互いの課題を双方が持っているリソースのトレードによって解決するというWIN-WINの関係を作り、ビジネスとして成立させている点は素晴らしい。
このようなソーシャルビジネスの価値は今後、さらに社会的に注目され評価されていくだろう。
そして、それは会社の社会的価値を上げると共に、その組織の持続可能性も上げていくものである。
そういう意味においては、単なる企業の社会貢献とは一線を画している。
この雪国まいたけの取り組みは、これからの日本企業が目指すべきビジネスモデルの先駆けとして学ぶべき点が多々ある事業である。
2013.05.15
2010年に世界のBOPプロダクトを集めた日本で初めての企画展「世界を変えるデザイン展」を開催してから3年、今度は「未来を変えるデザイン展」を企画しました。
■世界を変えるデザイン展■
http://exhibition.bop-design.com/
本企画は、自分なりに色々と悩み、素晴らしい方々のアドバイスをいただきたながら、一つの企画にまとめてきましたが、その趣旨について、あらためて考えてみたいと思います。
本稿では、裏側の色々なこともできるだけオープンにして、みなさんと考えられたらいいなぁと思ってもいます。
ぜひ、いろいろなコメントもいただけたらと。
■未来を変えるデザイン展■
http://mirai-design2013.jp/
2013.04.14
※本記事はオルタナ2013年3月号に寄稿したものです。
アベノミクスが始動し、期待感で株価が上昇しています。
私にはこの理由はよくわかりませんが、それだけ社会全体が閉塞感で押し潰れそうになっていることの裏返しなのだと思います。
また、「世界一を目指す」、「強い日本」、「イノベーションを世界へ」など、安部政権から発せられる言葉は強烈な印象を受けるものが多い一方、今のところは空虚感の漂う言葉であることも事実です。
これは今後の政府の具体的舵取りによって払拭してもらいたいと思っていますが、その間にも社会は益々混迷をきわめ、経済は弱体化、大企業は硬直化した従来型経営を変えることができず、社会的弱者は増加、セーフティーネットも縮小の一途を辿っています。
これらは日本特有のものではなく、これまで世界を牽引してきた先進国全体が直面している課題でもあります。
そんな中、社会課題解決の担い手としての企業への期待感が強まるのは当然と言えます。ビジネスが顧客のニーズを満たすことによって対価を得るものである以上、社会課題が社会のニーズ化している今、それらをビジネスで解決するのはごく自然なことです。
では、なぜそれらの取り組みが「イノベーション」という言葉で語られているのでしょうか。
それは、現状の複雑かつ多様な社会課題の解決をビジネスという切り口で取り組もうとした場合、従来までのビジネスモデルの考え方では収益を生み出すことができない、あるいはそもそもビジネスモデルとして成り立たないために、それらを飛び越えた発想の先にビジネスモデルが存在しているからと言えます。
有名な逸話として、それまでパソコン一筋だったアップル社が「iPod」という音楽プレーヤーを突然創り出した話があります。自宅にある全ての音楽CDを持ち運べるというイノベーティブな製品は、ジョブズ氏が困っていた友人のために作ったことがきっかけとなりました。
一つのイノベーティブなアイディアは、積み上げ型の発想からは生まれません。パソコンを売る企業という枠組みで、アップル社が次の製品をどれほど考え続けたとしてもiPodは生まれないのです。
当時ソニーがiPodを造るための技術もコンセプトも持っていたのにそれを作り出せなかった指摘はこの点でも納得のいくものと言わざるをえません。
もし自社でエクスクルーシブバリュー(唯一価値)のある新規事業を創りたいというのであれば、社会課題からのバックキャスティングによって発想を飛躍させることを提案します。
それはおそらく、今までの自社の事業領域とは全く違うものである可能性が高いでしょう。しかし、その事業が成功した場合、iPod以降アップル社が単なるパソコンメーカーではなくなったように、将来、それは全く違和感なく、その会社を代表する事業として語られていくに違いありません。
世界における日本企業のプレゼンスを考える時、日本の技術力を活かした領域はもちろんのこと、社会課題解決型ビジネスという視点を常に持つことで、世界に必要とされる日本企業の復活は難しくないと考えています。
唯一の課題は、このような新規事業づくりの発想そのものが今の日本の、特に大企業の文化の中から失われてしまっているという事実であり、それが本当の社会的ボトルネックなのかもしれません。
2013.03.06
東日本大震災発生から2年を迎える2013年3月、被災地では復興に向けたさまざまな取り組みが続けられています。
企業による震災支援活動もかなり少なくはなったものの、た支援を継続している企業も数多く存在しており、従来までの一過性の災害支援とは一線を画した取り組みを感じることができます。
今回は、この支援活動を顧客との共感を生みながら実施することで継続的な支援につなげると同時に、自社のブランディングとしても成功しているソフトバンクグループの事例をご紹介します。
まず、ソフトバンク株式会社は震災発生後、10億円を寄付したほか、社長である孫正義氏個人による100億円という巨額の寄付によって社会的注目を集めました。これは個人の慈善事業としての支援活動でありソフトバンクという会社そのものの被災地支援活動ではありません。
しかし、この寄付金の一部を原資として、東日本大震災で被災した子どもたちとその家族の支援を行うことを目的に、「公益財団法人 東日本大震災復興支援財団」という新しい組織が立ち上がり、現在も支援活動が続けられています。
■公益財団法人 東日本大震災復興支援財団■
http://minnade-ganbaro.jp/
ソフトバンクモバイルとしては、震災直後からユーザーからの義援金受付や、被災地で活動するNPO団体に対して携帯電話を無償で貸し出し貸し出しするといった本業を通じたさまざまな支援を行う一方、Yahoo! JAPANではプラットフォームを活用した義援金受付なども展開してきました。
そして現在、ソフトバンクモバイルとソフトバンクBBでは「チャリティホワイト」というマッチング寄付の仕組みオプションサービスを提供実施しており、携帯電話の利用者から多くの寄付金を集めて被災地支援団体に寄付しています。
■チャリティホワイト■
http://www.softbank.jp/mobile/special/charity_white/
「チャリティホワイト」は、ソフトバンクの携帯電話利用者から毎月の引き落とし額にプラス10円の寄付を呼びかけ、それと同額(加入者1人当たり10円)をソフトバンクモバイルまたはソフトバンクBBが拠出、1カ月あたり20円を、「中央共同募金会」と「あしなが育英会」に寄付する仕組みです。
現在、このチャリティホワイトの加入件数は100万件人を超えており、毎月約2,000万円の寄付が生み出されています。一社の取り組みとして、これだけの規模で顧客の賛同を得ながら寄付を集めていることは驚嘆に値します。
この仕組みを作ったのは、ソフトバンクグループ通信3社のCSR企画部部長である池田昌人氏であり、そのきっかけは「個人としてだけでなく何か会社としてできないだろうか」という熱い思いでした。
マーケティング部門からCSR部門に異動になった池田氏は、一社員としてこのチャリティホワイトの企画を経営会議に付議し、即断してもらうことに成功しました。
しかし、企業におけるこのような社会貢献活動は、経営が悪化すると突然止まってしまうことが往々にして問題となります。そこで彼は、ソフトバンクモバイルの全ユーザー約3000万件とチャリティホワイト加入ユーザー95万件のユーザーの行動分析を行い、携帯電話の解約防止効果の実数の解明からソフトバンクのファンがこの社会貢献プログラムにより生み出されていることを社内に証明しました。結果として、チャリティホワイトは当初の終了予定を延長し継続が決定されたのです。
企業である以上、利益を上げていかなければ組織そのものの持続性が担保できません。
したがって社会貢献だけをやっているわけにはいきませんが、一方で社会に対して大きな影響力を持つ企業には、社会的役割や責任を果たしていくことが求められています。
とすれば、それを両立するための価値の可視化は追求していかなければならず、それを株主をはじめとするステークホルダーに対し、きちんと説明していく必要があります。結果的にそれらは自社のプレゼンスを高めると同時に、経営そのものにも良い循環を生み出していきますが、多くの企業がその前段でつまずき、課題を抱えているのも事実です。
ソフトバンクグループの取り組みは、これらの課題を解決するにはどうすればいいのかについて多くの示唆に富んでおり、学ぶべき点が多々あります。