2013.03.01
地球環境問題の悪化や格差による貧困層の増大など、地球と社会におけるサステナビリティへの懸念が広がっている。
その問題解決に向けて、欧州をはじめ各国では、社会的影響力の大きいグローバル企業のCSRの期待が高まっており、その流れの中で、財務と非財務(ESG)双方の観点を合わせて企業業績を評価するというCSR経営が、EU委員会でも戦略的に推進されている。
1997年から国際的なサステナビリティ・レポーティングのガイドラインを発行している国際NGO「Global Reporting Initiative (GRI) 」では、このような社会的要請を加速するために、最新版となるガイドライン第4版(以下、G4)を、本部のあるアムステルダムで2013年5月に行われる国際会議で大々的に発表する。
日本ではG4発行に先駆けて、企業やNPO、CSR専門家といった様々なセクターの有志が連携。このたび、日本社会への情報発信と意識啓発活動を行う「GRIマルチステークホルダー委員会」を3月1日付で発足することとなった。
国内でのサステナビリティ・レポーティングの推進活動についての提案と同時に、世界に向けた情報発信も含めて積極的に活動を行っていく予定である。
それに先駆けて、3月中旬に、日本財団ビル(東京都港区赤坂)にて同委員会の発足説明会を予定しています。同委員会の紹介のほか、企業報告に関する国際的な潮流について、委員長の冨田秀実氏より説明をいただくこととなりました。
■マルチステークホルダー委員会概要■
■名称:G4マルチステークホルダー委員会
■発足:2013年3月1日
■主な目的
持続可能な社会に向けて、企業の非財務情報開示に関する議論を深め、国内での普及啓発国際的基準へのエンゲージメントを図る。
■具体的な活動
① G4および企業の情報開示に関する国際会議 (5月22~24日、オランダ・アムステルダム) への参加呼びかけ (日本企業グループとしてのCSR先進事例発表も企画)
② G4の和訳と出版
③ シンポジウム、セミナー、勉強会を通じた非財務情報開示(G4活用)の普及啓発活動
■ メンバー構成
委員長 冨田 秀実 ロイド レジスター クオリティ アシュアランスリミテッド
GRIテクニカル・アドバイザリー・コミッティー(TAC)メンバー
アドバイザー 後藤 敏彦 元GRIボードメンバー(1998年~2006年)
サステナビリティ・コミュニケーション・ネットワーク代表幹事
サステナビリティ日本フォーラム 代表理事
メンバー
関 正雄 株式会社 損害保険ジャパン理事 CSR統括部長
金井 司 三井住友トラスト・ホールディングス株式会社 経営企画部CSR推進室長
川北 秀人 IIHOE(人と組織と地球のための国際研究所) 代表
石田 寛 特定非営利活動法人 経済人コー円卓会議日本委員会 専務理事兼事務局長
薗田 綾子 特定非営利活動法人 サステナビリティ日本フォーラム 事務局長
株式会社クレアン 代表取締役
町井 則雄 日本財団 経営支援グループ CSR企画推進チームリーダー
G4マルチステークホルダー委員会 事務局
協力団体
(予定含む) 経済産業省、環境省、公益社団法人 企業市民協議会、株式会社 日本取引所グループ
2013.03.01
【本業を通じた社会課題の解決】
キリン株式会社は2013年1月より新しくCSV(Creating Shared Value)部を立ち上げた。企業価値の向上と社会価値の向上をセットで行っていこうという試みの一つとして、組織的に取り組んでいく姿勢を打ち出している企業は、日本の中でもまだ例が少ない。
同社が行う復興支援のスキームも、基本的にこうした考え方の基に成り立っている。
キリンの復興支援事業は、「復興応援 キリン絆プロジェクト」と銘々され、「絆を育む」をテーマに「地域食文化・食産業の復興支援」「子供の笑顔づくり支援」「心と体の元気サポート」の3つの幹で構成されており、3年間で約60億円を拠出することとなっている。
本事業で特に注目したいのは、「地域食文化・食産業の復興支援」の事業だ。
本事業の原資となっているのは、同社が実施した「今こそ!選ぼうニッポンのうまい!2012」プレゼントキャンペーンの対象商品などの商品1本につき1円分の寄付を集めたものになっている。まず入口の部分で、消費者とのコミュニケーションを行った上で、出口の部分では、この資金を基にして、水産冷凍施設の修繕をはじめとする、いわゆるハード支援のみならず、地域ブランドの育成や担い手の支援などを行う計画となっている。
水産物の生産加工に携わる個別の事業者を支援するのではなく、各地域で持つブランドを面として捉え、支援を行うことによって、獲れたものが適正な価格で市場に流れ、食卓にものぼり、おつまみはキリンビールで、というストーリーを考えている。まさに社会価値の創造を行いながら、本業にもつなげていこうという試みの一つといえよう。
【水産業を取り巻く既存システムの限界】
東日本大震災では、原発をはじめ、様々な領域で既存システムの限界が露呈したが、水産業もその例外ではない。
たとえば、国の支援制度というシステムを見てみると、補助制度の中における自己負担という考え方が出てくる。水産庁や自治体等の復興支援によって、漁船の購入、修繕や、冷凍施設等への様々な補助制度が作られたのだが、こうした補助制度は必ず自己負担を漁業者側に求めている。震災で被害を受けた漁業者にとって、この自己負担分というのはかなり大きな金額である。
これに加えて、マーケット側の調達ラインの変更がある。震災によって一時的に生産ラインが止まってしまったことから、量販店を中心として、調達のラインが一気に東北から、海外を含めた他の地域にシフトしてしまったのである。いくら東北の海産物が新鮮で、美味しくても、ある程度の品質であれば、価格の安い調達先に流れてしまうのだ。
さらに追い打ちをかけているのが、原発による風評被害である。特に福島県は非常に難しい状況にあるが、やっとの思いで漁業を再開し、加工も再開したものの、獲れたものが、これまでのような価格で売れないのだ。
こうした問題の多くに、国の支援制度は追い付いておらず、民間レベルの支援にその期待が集まっている。
キリン株式会社の行う水産業復興支援「絆」プロジェクトもその一つだ。
【フィランソロフィーの先にある企業と社会との関わり】
これまで、日本企業の多くは、いわゆるフィランソロフィー的な観点で社会課題の解決に取り組んできていた。しかし、近年欧米では、社会の課題を事業活動を通じて解決していこうとする動きが出てきている。
キリン社の取り組みは、あくまで復興支援というフィランソロフィー事業としてスタートしているが、中長期的にはCSVという戦略の中で、事業にも連結させていく試みが検討されている。
後者の部分があまりにも露骨に出てしまうと、儲けるために社会貢献をするのか、という批判も出てくるだろう。しかし、結果的に社会の課題が「適切に」解決されていくのであれば、その中で企業が儲けてはいけないなどということはなく、むしろ持続可能な事業にするためには必要なことですらある。
キリン株式会社の取り組みが、これまでのフィランソロフィー型の事業から脱皮した事業のモデルとなると共に、日本の水産業への未来へと繋がる事業となることを期待したい。
※日本財団はこれまで海洋分野で培ってきた事業実績を基に、キリン株式会社の行う水産業復興支援事業について、寄付金をお預かりし、共同で事業を推進しています。