2012.11.20
「2003年はCSR経営元年」ともいわれており、それから約10年近くたったことになります。
この10年で日本のCSRも大きく変化を遂げ、「守りのCSR」から強みを生かした「攻めのCSR」へと変化を遂げている感があります。
今回は「本業を通じた戦略的CSR」活動として、成功している事例の一つとして積水ハウス株式会社(以下、積水ハウス)による(仮称)小児がん専門治療施設「チャイルド・ケモ・ハウス」の支援をご紹介したいと思います。
「チャイルド・ケモ・ハウス」とは、我が国で初めての、小児がんと闘う子どもたちとその家族が家のような環境で療養に専念できる施設です。「病院」ではなく、「家」のような環境で、親やきょうだいと暮らしながらがんと闘う子どもたちを応援する場をつくりたい、という小児がんで子どもを亡くした家族の強い想いから始まりました。
神戸市から土地を賃借し、社団法人日本歯科医師会と公益財団法人日本財団が取り組む「TOOTH FAIRY プロジェクト」の資金援助も受ける形で、建築計画が具体化したものです。建築にはこの考えに共感した積水ハウスが総合企画設計と施工を担当するほか、約2億円を寄付することとなっています。
積水ハウスの企業理念の根本哲学は「人間愛」。そして事業の意義として「人間性豊かな住まいと環境の創造」を掲げています。積水ハウスでは、これまで多くのユニバーサルデザイン・アイテムを開発し、住まいに導入する事で、より安全で安心な暮らしを提供してきました。
コーポレート・コミュニケーション部 CSR室長 広瀬雄樹さんは「小児がんと闘う子どもたちに良好な入院環境を確保できていないという社会課題と「家」のような環境で家族が絆を保ちながら治療に専念するという施設のコンセプトに共感し、支援を決定しました。今後も次世代育成に関わる課題解決をCSR活動の重要な柱の一つとして取り組みを続けてまいります。」とお話されました。
積水ハウスのCSR活動はうまく自社の強みを生かしながら、社会課題の解決に大きな力を発揮するということを体現した一例であり、CSRの取り組みとして注目すべき事業の一つと言えるでしょう。
2012.09.16
東日本大震災における企業による被災者支援活動の特徴の一つとして、支援方法の多様性を挙げることができます。
今回は、この多様性の一つの事例として、東京の恵比寿に本社を持つサッポロホールディングス株式会社(以下、サッポロ)が行っている被災地支援活動について見てみたいと思います。
サッポロでは、2009年より、本社のある恵比寿の地域の方々への感謝を込めて恵比寿ガーデンプレイスという場所で「恵比寿麦酒(ビール)祭」というイベントを秋に開催しています。このような取り組みをCSR的視点で見ると地域コミュニティとの共生のために企業が行うアクションの一つとしてメジャーなものです。
■恵比寿麦酒祭り2012■
http://www.sapporobeer.jp/news_release/0000020410/
サッポロではこのイベントでのビール売り上げの全額約2700万円をNPOカタリバという団体が被災地で行っている「コラボ・スクール」という事業に寄付をしています。(実際にはここでの売り上げに加え関連会社などからの寄付も含んだ額を寄付。)
■コラボ・スクール■
http://www.collabo-school.net/
この事業は、被災したことにより教育の機会を奪われた子ども達に学びの場を提供することを目的として、放課後の学校を活用して塾形式で行われる事業です。
ここで教鞭をとる教師は塾が流されるなどすることで職を失った講師を雇用し、さらに年齢の近い大学生なども一部ボランティアで教えるなどしながら運営されています。
これにより、震災で遅れた子ども達の学習時間を取り戻すことができるだけでなく、被災された講師の方々の雇用を再生することもできるという非常によく設計された被災者支援事業となっています。
コーポレートコミュニケーション部 広報室の大森克弘氏が「本社のある恵比寿の地域の方々と一緒に被災地を支援したい。」と語られるように、本社のある地域の方々への感謝を込めて実施するイベントでの売り上げを被災地支援の寄付に充当するというのは、地域と一緒になって被災地支援活動を実施するということです。
その連鎖が社会との共感を生める取り組みとして素晴らしいだけではなく、会社のイメージアップにもなるもので見習うべき点が多々ある取り組みと言えます。
2012.06.12
エコ、フェアトレード、オーガニック、ロハス、エシカル、これらを標榜する商品はここ10年ほどの間に少しずつ社会に浸透し、現在も増え続けています。
これらの商品の多くはソーシャルプロダクトというカテゴリに分類されます。
何がソーシャルプロダクトと呼ばれるものなのか、少し乱暴ながら一言で言うと「社会との共存を目指した商品」と言えるでしょう。
たとえば、公害を生み出すことと引き換えに売れる商品を作ったとして、それは持続可能でしょうか。一時的な利益は生むかもしれませんが、長期的にはそれに倍する損害を覚悟しなければならないでしょう。
これは極端な例ですが、ソーシャルプロダクトと呼ばれる商品が生まれてくる背景には、ソーシャルではないプロダクトが世の中に溢れているという意識が消費者側にあります。
これは、生産者側がそういうものを実際に作っているかどうかではなく、消費者側がそう思っているということです。
私は講演などでトヨタのプリウスについて話すことがあります。プリウスは自動車業界では革命的なソーシャルプロダクトですが、注目されるのはハイブリッド車の先駆けとして低燃費やCO2の排出量が少ないエコ商品であるという点です。
これは全くそのとおりですが、私はプリウスの本当の価値は「ハイブリッド車は高くても売れる」という、ビジネスとしてわかりやすい事実を他の自動車メーカーに突きつけたという点にあると考えています。
プリウスがどんなに素晴らしいエコ商品でCO2の削減ができる車であったとしても売れなければ世界のCO2は減りません。そして、プリウスが爆発的に売れたとしても(実際に売れていますが)、世界の自動車産業全体から見れば一車種でのCO2の削減量には限界があります。
しかし、プリウスが爆発的に売れたことによって、世界の自動車メーカーは自分たちもこのような商品を作らなければ競争力を失うと考え、結果的に自動車業界全体がエコ自動車開発とその競争へと舵を切ったのです。
このパラダイムシフトを加速させた功績こそが、プリウスという車が果たした本当の社会的価値であると思うのです。
ではここでもう一つの視点、消費者はなぜ他の乗用車よりも高額であるにも関わらずプリウスを選択して購入したのでしょうか? プリウスを購入する人達はエコに関心がある意識の高い人たちばかりでしょうか?
そのような意識の高い人も当然プリウスを買うでしょう。しかし購買者の多くは、ガソリン高騰という社会的背景も手伝い「低燃費でガソリン代が安く済む」という経済的ベネフィットに魅力を感じ、車両価格と天秤にかけた結果としてプリウスを選択したのでしょう。
つまりプリウスは「エコだから、ソーシャルプロダクトだから、売れたのではない」ということです。
今、世の中には多くのソーシャルプロダクトが生み出されています。それらに魅力を感じ購買する層も増えています。しかし、一つの帰結として、それらのプロダクトはソーシャルだから売れるのではなく、安全な食品、高品質な製品、優れたデザインなど、消費者にとって価格に見合うだけの魅力があるからこそまず売れるのです。
そして、ソーシャルプロダクトは、その先に「結果としてソーシャルなインパクトを与える」という付加価値を持っているからこそ素晴らしいプロダクトなのです。
そのようなポテンシャルと付加価値を持つソーシャルプロダクトですが、社会的にはまだまだ過渡期です。しかしながら、今後これらは自然と磨かれていき、社会的価値を加速していくことは間違いなく、ソーシャルプロダクトの先に新しいマーケットが広がっていくということも間違いありません。
2012.05.15
東日本大震災から一年が経ちましたが、引き続き被災者支援を続けている多くの企業があります。
今回、ご紹介するのは、「あったらいいなをカタチにする」というコピーで有名な小林製薬株式会社(以下、小林製薬)です。
小林製薬は大阪に本社があることもあり、東日本大震災に関しては震災発生初期から支援に向けた動きをすることができた企業の一つでした。
様々な支援物資の提供にはじまり、寄付付き商品の売り上げによる3億円の寄付をベースとした「青い鳥基金」の立ち上げなど、多くの支援活動を展開しています。
これらの活動の中で特に注目すべきは、社員ボランティアによるトイレ清掃活動です。
なぜなら、小林製薬はサワデーや消臭元という芳香剤や消臭剤を製造しているメーカーであり、トイレについてはプロフェッショナルな企業だからです。
グループ統括本社、広報部の小林昇氏は「トイレをちゃんときれいにするにはノウハウがあり、今回のボランティアでは社員がそれを踏まえて避難所のトイレを清掃して回りました。」と語ります。
衛生的に課題が多いと指摘されていた避難所のトイレの掃除をこれらの社員がボランティアとして行うのは、本業でのノウハウを使った素晴らしいボランティア活動と言えます。
今、一つの流れとして、企業の社会貢献は「本業を通じた」ということがキーワードであり、プロとしての社員がそのスキルを活かしたボランティアを行うという意味の「プロボノ」という言葉も生まれています。
同じ社員ボランティアでも、本業を活かせる活動に取り組むことで組織の存在理由ともつながるストーリーがそこに生まれます。
これは社会から共感を得やすいだけでなく、社員のモチベーションの向上にもつながるものであり、社員ボランティアを組織として進めていく上では、必ず考えるべき価値のある取り組みなのです。
2011.11.18
東日本大震災の災害支援では、現在も引き続き多くの企業が社会貢献として様々な活動に取り組んでいます。
その中でも、存在感のある活動を展開している企業の一つが宅急便のクロネコヤマトで有名なヤマトホールディングス株式会社(以下、ヤマトHD)です。
東日本大震災発生初期、被災地は道路寸断とガソリン不足により陸の孤島と化し、大きな問題となっていました。
そのような甚大な被害の中、陸送のプロである彼らはグループ企業一
丸となった「みんなのチカラプロジェクト」を打ち出し、3月23日から
車両200台と社員500人で編成した救援物資輸送協力隊で支援活動を行
いました。
そして、現在も続く「宅急便ひとつに、希望をひとついれて」をキャッチコピーとした「宅急便1個につき10円寄付」を決定します。これはヤマト運輸の前年度の取扱い個数から想定すると総額約130億円、これはヤマトHDの予想連結純利益の約40%を寄付することになります。
12月末までに約110億7800万円を集め、ヤマト福祉財団を通じて宮城県南三陸町の仮設魚市場の建設や岩手県野田村の保育園建設などにすでに寄付をしています。
これらの活動が市民に高く評価され、ヤマトHDは、日本財団が毎年実施している市民の投票によるCSR大賞でグランプリを獲得しました。
■ヤマトホールディングスがグランプリ 東日本大震災支援でCSR大賞■
http://blog.canpan.info/koho/archive/1605
この受賞にあたり木川眞社長は「社員全員が参加し、私たちのあるべき姿(社会的責任)を形として示すことができた。」と語られました。
この取り組みが社会の共感を生むことができた理由として、寄付そのものはヤマトHD負担ながらも、消費者自身が宅急便を利用することで被災地支援に参加できる仕組みとして展開したことが挙げられます。
近年、本業を通じた社会貢献の在り方が叫ばれる中、社会からの共感を生みながら取り組みを展開しているヤマトHDの活動は、多くの示唆を私達に与えてくれます。