2008.10.23
■全社的な取り組みの重要性■
日を追うごとに企業が「CSR」に取り組むということが当たり前のように叫ばれるようになってきています。
しかし、特にCSRの部門を持てるような大きな企業の担当者の方とお話しをしていて一向に変わらないのが、本音ベースで出てくる「社長はCSRに大乗り気だが、社内(社員)がついて来ない」という話です。
「CSRはCSRの部門がやればいい」という空気が組織内で蔓延していて、何か協力を依頼すると「またCSR部門が仕事を増やした」と思われてしまうことが多々あるという実態は、社会的なCSRの高まりとは別次元のようです。
これでは、いくら経営者が「わが社も社会の中で生きていくために責任を果たしていこう」と考え、CSRの取り組みに積極的になったとしても、その理念が途中で断絶し果たすべき成果が出なかったり、思っていたものと違うものになってしまうのは自明です。
結果として、広報部門などがCSRっぽい広告を広告代理店などに依頼し、実態 とかい離した的を得ていない広報などを展開してしまうことが往々にしてあります。
その場合、実態と違いますから、社員からは「わが社のイメージ広告は酷い。実態と全然違う。CSR部門は何をやっているんだ」などと不信感を増長するような悪循環の原因となります。
その宣伝が上手だと社会的、対外的なイメージはもちろんアップします。しかし、CSRの取り組みというものは単なるイメージアップの先に成果を望むものであってはなりません。
CSRというものは、企業の存在そのものとリンクしている根源的なものですから、一時的なイメージアップのためにCSRを利用するというような形態は長い目で見るとその企業にとって悪影響を及ぼす結果になりかねません。
それは、その実態と違うイメージを守るために社会に対して嘘をつかなければならない局面が容易に想定されうるからです。以前のコラムでも書いた通り、CSRというものは善意性が高いが故に、その裏切りは企業ブランドに大きな傷を付けることになります。
それらを避けるために、経営者とCSR担当者だけが一生懸命に取り組むCSRではなく、全社的に取り組むCSRの展開と、それらをきちんと広報していくという流れを作ることが重要であるということになります。
そこで、ある同じ業界の二つの企業の事例から、社員を巻き込むCSRの取り組みについて考えてみましょう。
■企業の底力につなげるCSR活用■
ある国内線の飛行機に乗り、サービスとしての飲み物の提供にコーヒーを頼んだとします。そこで「ミルクと砂糖はご入り用ですか?」と聞かれ、「砂糖をください」と答えた時の対応です。
一社のほうは、コーヒーフレッシュと砂糖、マドラーが入ったビニール袋をもらえます。もう一社は、砂糖とマドラーをそれぞれ単品で渡してもらえます。
この違いがおわかりになるでしょうか? 一言で言えば、不要なコーヒーフレッシュやビニール袋も手渡すサービスとニーズに合わせた単品だけを渡すサービスの違いです。
このわずかな違いが、洞爺湖サミットも開催され厳しいCO2の削減目標達成のために各企業が知恵を絞る中、空を飛ぶ飛行機に搭載する備品の削減ということで意味あるものになっているということでした。とはいえ、たかだかコーヒーの消耗品、ボーイングの747であれば機体だけで170トンもあるのですから、その中で何キロという単位で削減したところでたかが知れているじゃないか、というご意見はもっともです。
ところが、この取り組みはCO2削減とは違う観点で大きな意味を持っています。
それは、この削減案は現場のキャビンアテンダントが提案し、全社的に展開したものなのです。
つまり、CSRの取り組みとしてのCO2削減案を現場レベルからの発案として拾える体制を作り、全社的に展開できるという状態が作られていることが最も重要な点なのです。
このような全社を巻き込むムーブメントを仕掛けられるか、またはそれを広げられる社風を持てるかどうか、これは経営者と担当部門だけがCSRを展開しようとしてうまくいかない状態を回避するためにとても重要なポイントです。
そしてこれを含めた全社的な取り組みの成果として、この企業は大きな経費削減の成果を上げています。
経費削減効果だけでなく、このような社風を持てる企業は現場に元気があるということですので、将来伸びていく大きな芽を持っている底力のある企業と言えるのです。
もちろん、これによって生まれた自社のCSRの取り組みは社員の理解するところとなりますから、ES(従業員満足・社員の働く幸福感)も高まるという効果が期待できます。
☆ここがポイント☆
1.CSRの取り組みは全社的なムーブメントにすることで社会に理解される流れができる
2.CSRの取り組みをボトムアップで展開することで全社的な巻き込み感を醸成する
3.現場を元気にするためにCSRの取り組みを利用することは非常に有効
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