• 2013.11.29

    震災から3年 企業のCSRはどこに向かうのか?

    巷では、食材偽装問題が連日報道され、名だたる有名ホテル、デパート、レストランなどによる偽装の常態化が次々と明らかになっています。企業の食に関する不祥事は10年ほど前にも大きな問題となりました。当時のことを覚えている方も多いと思います。

    これら企業の不祥事と、2003年が日本のCSR元年と呼ばれていることとは決して無関係ではありません。企業のCSRの取り組みが加速する時、その背景として、このような社会的な負の面からの脱却を目的とする部分がありました。

    しかし、3年前の東日本大震災をきっかけとした加速はそのようなネガティブなものではありませんでした。
    突如出現した国難とも言える社会課題に社員一人一人が経営層も含めて一丸となり、「自分たちは何ができるのか」、「何をすべきなのか」を考え行動しました。それは本来あるべきCSRの形そのものと言えるものでした。

    あれから3年、大手鉄道会社によるデータ改ざん、大手銀行による反社会的組織に対する融資やクール便の常温配達問題、今回の大規模な食材偽装問題など、あの時の日本企業の輝きは何だったのか? と疑問を呈したくなるほどの不祥事が連日報道されています。

    これらの不祥事は氷山の一角でしかなく、企業は社会に対する欺瞞性を常に抱えていると考えるべきでしょうか?

    ここで世界の流れを見てみましょう。今年はCSRレポートの今後にとって重要な動きがありました。その一つが国際的なガイドラインの一つであるGRIが第四版となるG4を2013年5月に正式リリースしたことです。

    G4のテーマは「マテリアリティ」、「重要性」と訳されるこの言葉には非常に深い意味があり、今までのようにやっていることを網羅してCSRレポートとして報告すればよいということではなく、「自分たちは社会でどうあるべきか」を明らかにしていかなければCSRレポートが書けないという時代の到来を意味します。

    そして12月にはIIRCによる統合報告フレームワーク第一版の発表が予定されています。
    これらが目指すところは、企業活動の透明性の強化だけでなく、社会との正しい関係を作れる企業への経済循環の促進です。経済が循環して社会が活性化するというシステム自体は今後も変わらないでしょう。

    しかし、どこにどのように循環するか、は大きく変わっていく可能性があります。リーマンショック以降、特に海外の機関投資家は社会を裏切らない企業への投資の重要性に気付き、その流れも大きくなっています。消費者の購買行動も、こちらは少しずつですが変わりつつあります。

    企業の本質は、ドラッガーが指摘したように公器であり、決して欺瞞に満ちたものなどではありません。ただ、組織が大きくなればなるほど、そのような不祥事が起こりうる土壌が生まれやすくなるのは避けられません。その時、その芽を摘む最適な方法は、いかに多くの社員と企業理念を共有できるかです。最終的に組織の良心が現場にある限り、その組織は瓦解しません。今回の不祥事の多くが内部告発によって露見していることは、逆説的ながらも当該企業を救っているとも言えます。

    今後のCSRレポートが、その企業の本質を問う内容の開示に移行していくこと、社員に対してミッションを共有していくことがさらに必要となること、これは巨大化する企業組織やサプライチェーンに対して求められる自然な流れであり、今後、これらに真摯に取り組む企業こそが時代をリードしていくことになるのは間違いありません。

    ■企業の社会貢献活動は「陰徳」であってはならない■

    日本人の美徳の一つに「陰徳」があります。これは世界にも誇れる日本の文化ですが、過去においては企業が社会貢献活動に取り組む際にも、この「陰徳」を是とする風潮がありました。そして、それは今も根強く残っています。

    個人のポケットマネーであれば、黙って善徳を積むことは素晴らしいことかもしれません。
    しかし、企業が取り組む、または支援する社会貢献活動は、社内外を含めた多くのステークホルダーとの共感の下で行われるべきであり、これを陰徳で行うことは、社会にとっても、企業にとっても多くの機会を失うことにつながってしまいます。

    サッポロホールディングス株式会社とサッポログループ各社(以下、サッポロ)の取り組みから、陰徳ではなく共感を生みながら社会貢献活動を行うことの重要性を見てみたいと思います。

    サッポロでは、2009年より本社のある東京恵比寿の「恵比寿ガーデンプレイス」において、地元とサッポロを支えてくれる全ての方々への感謝を込め、「恵比寿麦酒祭」というビアフェスティバルを毎年秋に開催しています。

    CSR的視点で見ると、この取り組みはステークホルダーの一つである地域との関係づくりの一環として位置づけられるものです。しかし、震災以降、本イベントにおけるエビスビールの売上全額は被災地での子ども達の学習支援事業である「コラボ・スクール」という放課後学校に寄付されています。 ( http://www.hatachikikin.com/ )

    つまり、元々は感謝祭として始まったイベントにさらなる社会貢献性をもたせ、来場者と共に被災地支援につなげるという二重の共感を生む構造となっているのです。
    そのため、コースターに被災地支援を伝える文言を入れる、被災地支援にちなんだイベントを行うなど、来場者にその取り組みを伝えることも積極的に行っています。

    もしこれを陰徳で行ってしまうと、来場者はサッポロが主催するビアフェスティバルに来て楽しんで帰るという価値で終わってしまいます。しかし、この二重構造を伝えることによって、サッポロが感謝祭をどのように位置づけているのかがより明確に来場者に理解されるだけでなく、来場者も自分の一杯が被災地の子どもたちへの支援につながっていることでさらに気持ち良くビールを楽しむことができるのです。

    もう一つの重要なこととして、寄付を受けるNPOが感謝祭の期間中に挨拶をするような場面も用意されています。これにより、NPO側も自分達の活動の原資となる寄付がどのような形で行われたのかを目の当たりにすることができます。これは寄付を受けて活動を続けていくNPOにとって、とても重要なマインドセットになります。

    以上のように、サッポロの恵比寿麦酒祭における取り組みは、一つのイベントを通じて様々なステークホルダーとの共感を積極的に創り出していこうとする社会貢献事業であるからこそ、より多くの価値を社会に対して提供できるものとなっています。それは結果として自社のブランド力のアップにもつながり、社員にも共感を得られるものとなっていきます。

    この継続した支援も大きな後押しとなり、この11月には女川町に続き二校目となるコラボ・スクールが岩手県の大槌町に誕生、その建物には「サッポロ」の名前が掲げられています。