• 2013.09.02

    ソーシャルマーケティングの現状と課題

    多くの人たちに鮮烈な記憶を残したボルビックのCRM(コーズ・リレーテッド・マーケティング)として「1L for 10L(ワンリッター フォー テンリッター)」がありますね。
    プロジェクトの詳細は下記のURLをご覧いただきたいですが、これは、ここ10年内におけるCRMの認知度としては、最も成功した事例と言えるでしょう。

    ■1L for 10L■
    http://www.kirin.co.jp/products/softdrink/volvic/1lfor10l/

    2009年の野村総合研究所の調査によれば、回答した消費者の60%が「同じ機能・値段ならば、社会貢献できる製品を買う」と回答しています。最新のデータでは2012年の消費者庁による意識調査で、53.2%が購入時に製品やサービスの環境負荷について意識し、35.6%が事業者の経営方針や理念・社会貢献活動を意識していると回答しています。

    この二つの調査は、それぞれ聞く内容が異なっているため一概に比較することはできません。しかし、これらのデータ双方とも消費者の購買行動にこのような意識が少なからず働いているということを示しているといえます。

    東日本大震災以降、このような消費者意識はソーシャルな方向へと大きくシフトしてきたと言われています。特に環境面においては、ここのところの異常気象などを消費者自らが自分事として体感していることもあり、これまで環境などに関心がなかった人たちも意識を向け始めているのは当然の流れかもしれません。

    これら消費者を取り巻く環境の変化や意識の高まりに対する企業側の対応は、以前であれば「守りのCSR」と呼ばれる領域での対応が多いものでした。しかし現在は、これらを意識した消費者に対する積極的なアプローチ、すなわち、それらを特性とした製品やサービスを開発し、マーケティング戦略として展開していこうという「攻めのCSR」として取り組むケースが増えており、これらソーシャルマーケティングの事例は年々増えていると言えます。

    一方で、課題はその規模感です。先のボルビックに見られるような社会的反響と経済面を含めた大きなスケールでの成功事例はほとんどありません。

    野村総研の調査にもあるとおり、消費者が社会貢献の製品を買うには、「同じ機能・値段ならば」という前提があります。つまり社会貢献性は付加価値としての認知であり、まだ消費者の購買行動の幹に刺さっているわけではない。

    これは決して、社会貢献性のある製品やサービスが他と比べて劣っていることを意味しません。むしろそれらの製品は本質的には他者よりすぐれている場合も多いのです。

    では、なぜスケールアウトしないのでしょうか。それは、ソーシャルマーケティングに不可欠な「社会との共感共有」という重要な点において、それを創り出せるマーケッターがまだまだ少ないということが上げられると思います。

    これは現状では残念なことですが、これらのマーケッターに絶望的に欠けているのは社会的な視点です。モノを売る、ということだけは上手いけれどその社会的価値の伝え方が全くできない。それはこれまでの業界そのものの考え方がそうだったので仕方がないと言えば仕方がない。

    でも今後は、そのような手法ができるマーケッターは増えるでしょう、若い人たちの中にそもそもそのようなマインドを持った人たちがいて、これから社会で活躍していくからです。

    いずれにしても、ソーシャルマーケティングは今後、ますます企業にとって必要なものとなっていくことは間違いなく、その点では時代のほうが先に進んでしまっている感がありますね。

  • 2013.07.24

    CSR最前線 ~富士通・ヤマトHDの事例から~

    2011年3月に発生した東日本大震災は大変不幸な出来事でしたが、一方で今後の日本社会のあり方を考える上での明るい材料を得ることができた側面がありました。

    それは、今回の大震災において企業の中で働く一人一人の社員の気づきや判断が、被災地における課題解決につながっていったケースが多かったことです。

    現場レベルの気づきが、その後の企業の事業活動にも良い形で影響を与えることになった2事例(2社)についてご紹介したいと思います。これらはいわば、現場レベルでの「内発的動機」が企業内イノベーションを促していった事例であり大変参考になるものです。

    【富士通グループのクラウドサービスを活用した被災者支援】

    東日本大震災では、宮城県だけでも発災から約3日間で32万人が避難、約1,200ヵ所の避難所が設置されました。混乱を極める避難所を円滑にマネジメントすることは、阪神大震災の時にも課題となっていましたが、今回の大震災でも、被災者のニーズをいかに迅速、かつ正確に拾い上げて支援につなげていくかの仕組みが必要とされていました。

    この問題に対応するため、「被災者をNPOとつないで支える合同プロジェクト」、通称「つなプロ」というプロジェクトが、阪神大震災の時に活動していたNPO団体を中心として立ち上がりました。

    富士通グループは、本プロジェクトと早い段階から連携することで、自社の持っていたクラウドシステムを被災者支援の仕組みとして提供、結果的に大きな成果に結びつきました。

    同社ではここで培われたノウハウを基に、今は現地における医療サービスの向上のための情報インフラの整備を自治体とも連携して進めています。
    このプロジェクトは被災者支援から日本の課題解決プロジェクトへと変貌を遂げたソーシャルイノベーション事業としての性格を持っており、注目に値します。

    そして、この事業の特徴は、現場の担当者が「つなプロ」の会議に参加し実際に被災地にも足を運ぶ中で何が問題であるのかを自身で見極め、それを社内リソースと結びつけて実行したというボトムアップ型による成果という点で、私たちに多くの気づきを与えてくれます。

    ※これらは後日、「在宅医療から石巻の復興に挑んだ731日間 (日経メディカルブックス)」として一冊の本となって発行されました。
    ご興味のある方はぜひご一読ください。(私も一部で出させていただいています(笑))

    【ヤマトホールディングスの「まごころ宅急便」プロジェクト】
    ※本活動はCSR大賞の記事でも触れています。

    ヤマトホールディングス㈱の復興支援の取り組みは、震災直後の比較的早いタイミングで発表された「宅配便1箱につき10円寄付」という取り組みが有名です。

    こうした大胆な経営判断もさることながら、現場レベルでの判断とそれを支える社員一人一人の思いが、それ以上にこの会社としての価値となっています。

    その一例として、震災前から温められてきたアイディアが、今回被災地の中で実践され、その後、本業の方にもつながった事例があります。

    ヤマト運輸盛岡駅前センターでは、日本全国に集配ネットワークを持つ同社だからこそ地域で高齢者の方々を見守れる仕組みを作れるのではないか、という思いから始まった「高齢者見守りサービス」の企画が立ち上がっていました。

    特に高齢化率の高い東北では、お年寄りが買い物をする際に重い荷物を持って帰らなければならないということや、誰にも看取られずに亡くなられるという孤独死が大きな問題となっていました。

    現在、この現場レベルでのこうした気づきを基に、東北地方を中心に「宅配サービス」と「高齢者の見守り」、「買物代行サービス」を組み合わせた仕組みを構築し運用を始めています。

    2011年時点で65歳以上の人口割合が全体の23%を超える超高齢化社会の日本において、同社のような仕組みを提供する会社の必要性はさらに高まると同時に、そのソリューションを提供する同社の価値はさらに上がっていくに違いありません。

  • 2013.07.04

    日本取引所グループとの共催CSRセミナーのご報告

    日本取引所グループと日本財団では、2月に引き続き共同主催として、「CSR を取り巻く国際的なガイドラインのこれから」というタイトルでCSRセミナーを開催しました。

    第一部(午前)ではCSR活動の方向性と今注目度の高い話題として、国連グローバル・コンパクト 代表理事であり富士ゼロックス株式会社エグゼクティブ・アドバイザーの有馬利男氏に「これからのグローバル企業に求められるCSR経営」と題してご講演をいただきました。

    また、株式会社クレアン代表取締役の薗田氏、武田薬品工業株式会社コーポレート・コミュニケーション部シニアマネジャーの金田氏をお招きし、国際社会の中における各種基準やガイドライン等の動向を踏まえ、日本企業が注目していくべき点や企業の中での活用実践例についても合わせてご紹介いただきました。

    第二部では、G4の改訂ポイントについてお伝えするとともに、国際的なガイドライン、基準等の策定状況を踏まえ、日本企業がどのような点について着目していくべきかについてパネリストの方々と参加者も交え、議論をさせていただきました。

    会場は満席の約200名の主に上場企業CSR担当者にご来場いただき、活発な質疑応答も行われ盛況のうちに無事終了いたしました。

    ご参加いただきました皆さん、ご多忙の中をご協力いただきました講師の皆さま、心より御礼申し上げます。

    こちらのセミナーの詳細報告はこちらをご覧ください。

    ■CSR を取り巻く国際的なガイドラインのこれから開催報告書■
    http://www.nippon-foundation.or.jp/news/articles/2013/img/51/03.pdf

    2013年はCSRに関する国際的なガイドラインや基準についていくつか重要な動きがあります。
    5月にはGRIガイドラインのバージョン4(G4)が発行され、12月にはIIRCによる統合報告フレームワーク第一版が発表される予定です。ヨーロッパを中心として規制や基準作りが活発に行われるなど、CSRを取り巻く環境に大きな変化が起きています。

    日本ではG4発行に先駆けて、企業やNPO、CSR専門家といった様々なセクターの有志が連携。日本社会への情報発信と意識啓発活動を行う「G4マルチステークホルダー委員会」を3月1日付で発足いたしました。

    同委員会はアドバイザーにNPO法人サステナビリティ日本フォーラムの後藤様、委員長にLRQA Japanの冨田様をお迎えし、日本財団が事務局を務めております。本委員会には、株式会社 日本取引所グループ、経済産業省、環境省、一般社団法人グローバル・コンパクト・ボード・ジャパン・ネットワーク(GC-JN)も協力団体として関わっていただいております。

    去る3月15日に、日本財団ビル (東京都港区赤坂) にて同委員会の発足説明会を開催し、5月22~24日アムステルダムで開かれたGRIカンファレンス‘Global Conference on Sustainability and Reporting 2013’に23名の日本代表団を組織、参加して参りました。

    今後の動きにもぜひご注目ください。

  • 2013.05.20

    ソーシャルビジネスの事例紹介 ~雪国まいたけ~

    近年、ソーシャルビジネスという言葉を聞く機会が増えてきた。

    ソーシャルビジネスとは、主に本業を通じて社会的課題をビジネスの中で解決していこうとするビジネスのことで、事業性を確保しているという点で、いわゆる企業の純粋な社会貢献活動とは異なる。

    事業性を確保すると言っても、通常の営利ビジネスとは少し違った側面はもちろんある。最大の違いは、利益を得ることが第一の目的ではなく、社会課題の解決が目的であるという点である。
    もちろん企業である以上、利益を考えなければ持続性が担保できない。ソーシャルビジネスとは、この二つを両立させるビジネスとも言え、単純に利益を上げるよりも難易度は高くなる。

    そんなソーシャルビジネスを展開する上で重要なことは、様々なステークホルダーとWIN-WINの関係を構築しなければビジネスモデルがそもそも作れないということ。

    近年の社会課題は複雑で、一社でリスクを取ってさらに利益を上げられるほど簡単ではない。したがって、公的な支援も含めた様々なノウハウを持ったステークホルダーと協働しなければならないことになる。これら、独特のビジネススキームをきちんと設計できるかがソーシャルビジネス成功の鍵となっていく。

    このソーシャルビジネスの取り組みを行っている会社の中でも、世界的にもその存在が知られている「株式会社 雪国まいたけ(以下、雪国まいたけ)」の事例を考えてみたい。

    雪国まいたけは、資本金約16億円で新潟県魚沼市に本社を持つ、「まいたけ」や「えりんぎ」、「もやし」などの生産販売などを行っている会社である。2011年より世界の最貧国の一つと言われるバングラデシュで「Mungbean Project(緑豆プロジェクト)」というソーシャルビジネスのプロジェクトを展開している。

    このプロジェクトの推進母体は、雪国まいたけとノーベル賞受賞者であるムハマド・ユヌス博士率いるグラミングループのグラミン・クリシ財団、九州大学との三者により設立された合弁会社「グラミン雪国まいたけ(Grameen Yukiguni Maitake Ltd. 以下、GYM)」。
    GYMの特徴は、ユヌス・ソーシャルビジネスのポリシーに基づき、利益配分は行わず、その利益は次の社会的な事業に回していくというやり方をとっていることである。

    そのようなGYMが手がける緑豆プロジェクトは、バングラデシュと日本の双方、そしてこのビジネスに関わっているすべての方々にとってWIN-WINのビジネスモデルとなっている。

    まず、バングラデシュにとって一番のメリットは雇用創出。本プロジェクトでは、豆の製造者である契約農家、できた豆を選別する作業者、そしてエンドユーザに売る販売者という三者に対し雇用の機会を提供している。

    日本にとっては、安定的供給、価格上昇、安心安全という3つのリスクを回避できるという点が重要である。緑豆は発芽すると「もやし」になるが、この緑豆の約90%は中国からの輸入に頼っている。しかし価格は4年前と比べて2倍以上も上がっており、この価格はさらに上昇していくと予測されている。

    このまま中国からの輸入に頼っていると、私たちにとって安価で栄養豊富な野菜の代表格であるもやしは高価な野菜になってしまうかもしれない。仕入れ先の多様化は日本にとって重要な問題である。

    そして、近年中国などで特に問題になっている農薬など、食べている野菜は安全なのか、という点においても、雪国まいたけが行っている「雪国まいたけ安全システム」が活用できることから安心できるシステムが構築されている点も重要である。

    本プロジェクトの責任者で雪国まいたけの上席執行役員である佐竹右行氏は、「さらに日本の優れた農業技術をバングラデシュの農民に伝え、量と質の向上も図っています。農村地域で付加価値が高く高価格の作物を農民が栽培することで現金収入も増えます。現在、約7,500人の契約農民が雇用され、約1,500トンの収穫があり、そのうちの約300トンが日本への輸出向けです。」と語られている。

    単に貧困国であるバングラデシュを先進国である日本がサポートするのではなく、日本にもその成果物を輸出してもらうことで、お互いの課題を双方が持っているリソースのトレードによって解決するというWIN-WINの関係を作り、ビジネスとして成立させている点は素晴らしい。

    このようなソーシャルビジネスの価値は今後、さらに社会的に注目され評価されていくだろう。
    そして、それは会社の社会的価値を上げると共に、その組織の持続可能性も上げていくものである。

    そういう意味においては、単なる企業の社会貢献とは一線を画している。
    この雪国まいたけの取り組みは、これからの日本企業が目指すべきビジネスモデルの先駆けとして学ぶべき点が多々ある事業である。

  • 2013.05.15

    未来を変えるデザインとはなにか

    2010年に世界のBOPプロダクトを集めた日本で初めての企画展「世界を変えるデザイン展」を開催してから3年、今度は「未来を変えるデザイン展」を企画しました。

    ■世界を変えるデザイン展■
    http://exhibition.bop-design.com/

    本企画は、自分なりに色々と悩み、素晴らしい方々のアドバイスをいただきたながら、一つの企画にまとめてきましたが、その趣旨について、あらためて考えてみたいと思います。

    本稿では、裏側の色々なこともできるだけオープンにして、みなさんと考えられたらいいなぁと思ってもいます。

    ぜひ、いろいろなコメントもいただけたらと。

    ■未来を変えるデザイン展■
    http://mirai-design2013.jp/