小さい頃、近所にあった林に父と出かけた。見つけたクワガタを自分の帽子に入れて遊んだことがとても楽しかった。自分の自然体験の中でも特に心に残っている思い出である。
しかし、今、その林は全てきれいになくなり、住宅街になっている。そのことについて、個人的には、良いとも悪いとも思わない。地域に人口が増えて住居が必要になったのは理解できるし、そのために林のエリアが条件に合ったんだろうと思う。ただ、なんともいえない、豊かさを失ったような切ない気持ちをしんみりと感じる。
そんなふうに、「生物多様性」と聞くと、私が物心ついてからのこの20年間で、失われた自然について思いを馳せてしまう。
こう思うのは、私だけではないだろう。公益財団法人旭硝子財団が全国各地の10~60代の男女1,092名に対して2024年に実施した「第5回生活者の環境意識調査(※1)」では、「生物多様性が失われつつあることを、あなたの身の回りで感じることはありますか」という問いに対し、47.7%、約半数が感じると回答した。
一方で、同調査の日本国内の環境問題で危機的に思う項目として「気候変動」が1位の45.5%だったのに対し、「生物多様性」はわずか1.6%に過ぎなかった。危機感としては気候変動よりも薄いという結果だ。たしかに、気候変動が進んだ結果、生物多様性が喪失することはイメージが湧きやすい。一方で、生物多様性を保全・回復させることで、気候変動を緩和させる可能性もある。つまり、これらは相互に関連しあっている。
1992年に生物多様性条約が採択され、世界的に生物多様性の重要性が確認されてから30年以上が経った。その間、私は、生物多様性が向上したと感じたことはない。ただ、自分の行動や生活が生物多様性の保全に貢献するものでありたいと思いながら生活している。そんな個人に対して響く商品やサービスが世の中にもっと出回ることで、生活者の意識により一層いい変化がもたらされると思う。商品やサービスがきっかけとなって、家族や友人との間で話題になり、生物多様性の重要性がじわじわと広がっていくのではないだろうか。
会社にとっても生物多様性へ取り組むことは気候変動と同様にプラスになる。従業員のエンゲージメントが上がったり、人材採用がしやすくなるといったメリットがある。1990年代に学校で環境教育が盛んになった(※2)中で育った若者世代は、新卒市場や転職市場で、自らの仕事が持続可能な社会に貢献するものであるか、重視している。
株式会社sinKA 村山
※1 生活者の環境危機意識調査(公益財団法人旭硝子財団)
https://www.af-info.or.jp/ed_clock/jpsense_result.html
※2 日本の環境教育のダイナミズム(環境省)
http://eco.env.go.jp/lib/pdf/H27_jap.pdf