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令和のコメ騒動を私たちは未来に活かせるか【オルタナ総研所長コラム】

弊社代表町井がオルタナ総研所長コラムを執筆しました。

 

◼タイトル
令和のコメ騒動を私たちは未来に活かせるか
https://www.alterna.co.jp/154455/

 

〜 記事のポイント 〜

  1. 冷夏が原因だった「平成のコメ騒動」に対し、「令和のコメ騒動」は人為的要因で起こった
  2. 農業の現場は高齢化し、疲弊し、担い手不足が進んでおり、国も理解しきれていなかった
  3. 農業のDXも含め、「令和のコメ騒動」を農業の未来に向けて活かせるかが試されている

 

昨年から続いている「令和のコメ騒動」だが、40代以上の方であれば、「平成のコメ騒動」のことを思い出す方もおられるだろう。30年前、平成5年(1993年)の記録的な冷夏によってもたらされたコメ不足は、買い物客がお店に長い列をつくるなど今回よりも国民のパニック度合いは大きい騒動だった。

平成と令和のコメ騒動は、どちらもコメが市場から無くなったという点で共通している。しかし、その原因の本質と深刻さが全く違っている点に注意が必要だ。

平成のコメ騒動が冷夏という「自然的要因」によって引き起こされた一過性の課題だったのに対し、令和のコメ騒動は「人為的要因」によって起こっている恒久的な課題だからである。

政府がコメは足りているのだと言い続けた背景も実はここに起因している。なぜならコメの出来高を計る目安である「作況指数」は平年並みであり、これまでの指数から市場予測を判断するのであれば、「コメは不足していない」という政府の見解は的外れではなかったからだ。

にもかかわらず、どうしてコメ不足は続いているのか。これについては有識者や報道が様々な角度から詳細に分析しているが、地方創生関連の事業に関わり、現場と接点を持っている身として感じるのは日本の農業は私たちが思っている以上に高齢化し、疲弊し、担い手不足が進んでいるという現実だ。そして、その事実を国も総体としてまともに理解していなかったという怖さだ。

これは「食の安全保障」という観点においても深刻過ぎる課題だ。そして、このような事態が社会に訪れることは30年以上前から予測されていた。それにもかかわらず、何ら有効な政策が採られてこなかった結果、今回のコメ騒動が起きた。これは明らかな政策の失敗による人災とも言える事態なのだが、いまだにコメはいつ安くなるのか、という話が論点になっているのには違和感しかない。

今後、コメは安くならないし、安くなってはいけないのだ。このインフレが進む世の中で主食が高止まりすることは恐怖でもある。しかし、いくつかの誤った農政にも関わらずこれまでの価格が農家の方々の献身や我慢に支えられてきたという事実を私たち国民が理解し、彼らの労力やコストに報いる適正な値段で買い支えなければ、30年と言わず10年後ですら日本の農業は崩壊している可能性すらある。

もう一つ、国として絶対に取り組まなければならないのは、この異常とも言える短期間の価格の高騰により「コメ離れ」が加速するだろうことに対する対策である。日本が減反政策を進めてきた背景にも日本人によるコメ離れが要因の一つとしてあった。

高齢者ほどコメを食べる人が多いと考えている人もいるが、むしろ実態は逆で高齢者はパン食を好んで食べている。つまり、今後、人口減少と高齢化がますます進むとコメの消費はさらに落ち込んでいく。その中でもやはり食の安全保障としてコメの生産を位置づけるならば、コメ消費量の減少という社会的潮流とコメの生産力の維持をどうバランスしていくかは喫緊の課題だ。

そして、再度、農家にこのしわ寄せを負担させるようなことはあってはならない。そのようなことも含め、令和のコメ騒動は起こって欲しくなかったが、逆にこのタイミングでこの課題に私たちが気づけたという点ではマイナスではなかった。そして今、この課題にきちんと向き合い、農業のDXなども含め、日本の農業の未来に向けて活かすことが試されている。