社会課題をビジネスによって解決しようとするソーシャルビジネス。
現在、日本でも数多く生まれてきています。
これらが期待され、生まれてくる背景には、国や行政のセーフティーネットの限界があります。社会が右肩上がりに成長し、納税額もそれに伴って増えていくような時代は、社会課題の解決は国や行政に任せ、企業は営利を目的としたビジネスのみを追求しても社会が成立していました。
しかし先進国が長期的停滞の時代を迎えた現在、多くの社会課題の噴出とその解決には国や行政だけではもはや不可能であり、もう一人の立役者として、企業の取り組みに期待が寄せられるようになってきたことは自然なことでもあります。
少なくとも、一定量のニーズが存在する社会課題があるとするなら、そこにはビジネスによる持続可能な解決手法は必ず存在します。しかし、それらのビジネスを開発するためには、通常の新しいビジネスを生み出す以上の発想力や社会とつながる仕組みづくりが必要で、それだけ難しいビジネスであるのも事実です。
震災から三年、大きな被害を受けた地域の一つである大船渡市で一つのソーシャルビジネスが生まれています。母体は「三陸パートナーズ」という6社が集まった協同組合です。大船渡市を「食のまち」としてブランド化、さらには観光資源としてもそれらを活用していくために作られました。
ここで注目すべきは、水産加工業同士という、震災前まではライバルでありつながることなど想像もできなかった会社同士が連携し、このビジネスの根幹を形成しているということです。突然降ってきた震災からの復興という巨大な社会課題を前に、その地域で生きる人たちが利益を超えて手を組んだのです。
そしてもう一つの要素は、被災地支援のNPOに加え、キリングループという東京を本社に持つ大企業、そしてフレンチ界で有名なシェフなど、被災地外の人たちが協力、大船渡市に「食×観光」という、いわゆる6次化による新しい産業を作ることを目指していることです。
ブランド化に向けた様々な商品開発や販売ルートの確保、そして観光資源化するための地域の他産業との連携など、もし三陸パートナーズが自分達のビジネスのことしか考えず、一社一社バラバラにそれぞれの復興を目指していたとすれば、このような大きな戦略と可能性を持った仕組みを生み出すことはできなかったでしょう。
ソーシャルビジネスの強みとは、まさにこの社会とのつながりによって生まれる新しい価値やイノベーティブな突破力にあります。通常のビジネスであれば成功し得ないことが、ソーシャルビジネスだからこそ可能になることが往々にあるのです。
日本を代表する企業の多くが、これまで自分たちが続けてきたビジネスモデルだけでは生き残ることができないという危機感から、新しい事業づくりに向けた取り組みを進めています。
今、それらの企業が指向すべきは、このソーシャルビジネスの考え方や社会との接点づくり、そして自社の利益だけではなく社会の利益を追求する先に自分たちが生き残るためのビジネスモデルがあるという発想に基づいた事業づくりです。
それは短期的な利益を生むものではないかもしれません。しかし、それらの事業への投資によって生まれるブランド力やネットワーク、そしてそれに伴う経験は間違いなく自社にとっての将来の糧となっていくものであり、他社には簡単に真似のできない大きな価値を生みます。
そして、その社会課題が大きい、つまりニーズが多い社会課題ほど大企業にとっても大きなチャンスがあり、取り組むべき事業領域であると言えます。
今、日本企業が世界から期待される次のビジネスは、このソーシャルビジネスの領域から生み出されて行くものが間違いなく増えていくでしょう。そして、それこそが日本のこれからの新しい成長戦略の根幹を担うべきものとなるはずです。