「スーパー広報術」というサイトのメルマガで「CSR広報の時代」という連載をさせていただいています。
その内容を一部リメイクしてこちらに掲載いたします。
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■法律を守るだけでは会社は守れない
大阪の名門料亭「船場吉兆」がついに廃業となりました。度重なる不祥事で経営が行き詰ったことが原因ですが、社会的に誤解を招いていると感じるのは、彼らが食品衛生上重大な過失を犯したかのように報道されている点です。
厚生労働省が「品質が保たれていれば法律には抵触しない。あくまで道義上の問題。」とコメントしたように、彼らは法律的に見ると食品衛生上の罪を犯したわけではありません。
昨年のミートホープ事件と違い、食品衛生法に抵触するような「食品の安全」が脅かされる問題とは異質であり、彼らを廃業に追い込んだのは法的処置による営業停止などではなく、社会からの信頼を裏切った結果です。したがって、「船場吉兆」の不祥事はもっと別な視点で認識され、非難されるべきですが、その点において、実はCSRと大きく関わっている問題です。
今回はこの点にフォーカスを当ててみましょう。
会社が事業を継続していく中で起こり得る危機に備えるための施策、いわゆるリスクマネジメントは、年々高度化しています。このリスクマネジメントにはそもそも危機を回避するという予防措置に加え、危機に襲われてしまった時の対応がワンセットになります。
施策の中でも特に、吉兆の「ささやき女将」バッシングに見られるように、メディアへの対応を含めた「クライシスコミュニケーション」と呼ばれる危機管理広報は、一つ間違えば会社の存続を左右するものであり、非常に重要で難しいものです。
ある会社の不祥事をマスコミが最初に報道する時、焦点は「法的に何を違反したのか?」ではなく、「社会に対してこの会社は何を裏切ったのか?」を追及します。社会はまず法的責任よりも情緒的に企業を追及する傾向が強いため、このほうがわかりやすくニュースとしての訴求効果も高いのです。
リスク管理上の定石として、これらの初期報道の段階、つまり最初の記者会見の場で謝る側の会社が言ってはならないとされるのが、「法的には違反していない」であるのはこのためです。
しかし実際には、この立場に立たされる企業の中にはこれらのセオリーを踏まずに自滅していく企業がまだまだ多いことに驚きます。
逆に言えば、これらのことを学んでいないからカメラのフラッシュの前で経営陣が頭を下げるという事態に陥ってしまったとも言えますが、すべては後の祭りです。
この、「法的に問題がなくても社会からの制裁にさらされる」というリスクは法的尊守ということだけでは会社を守れないことをあらわしています。
「法律を守っているだけでは会社は守れない」のであれば、どうやって会社をリスクから守ればよいのでしょうか?そこにCSRへの取り組みが重要な意味を持つのです。
■CSRでリスクを減らす
そこでまず、「船場吉兆」が行った道義上の問題の整理をしてみましょう。
菓子の消費・賞味期限のラベル張り替え、牛の産地偽装などにおける一連の偽装事件は、ご存知のとおり、農林水産省の管轄である食品衛生法ではなく経済産業省の不正競争防止法上の問題です。
つまり消費者の食の安全を守るという点から見れば、廃業に追い込まれるほどの法律違反を犯したわけではありませんが、一気にブランド力が低下してしまったのは、消費者への信頼を裏切ったからに他なりません。
そして、最後のカウンターパンチで廃業のきっかけとなった料理の使い回しも、食品衛生法に直接触れるようなことをしていたわけではなく、あくまで行った行為が客商売として非常識であったことが原因です。
これら食品を巡る消費者への裏切り行為の背景については、生産者側にもそれなりの言い分があると私は思います。
ミートホープの記事を取り上げた際に書きましたが、「肉が食べられることもなく捨てられてしまうのをもったいと思った」という社長のコメントが真実の一端を間違いなく捉えているように、船場吉兆にもその「もったいない」という意識があったのは事実でしょう。
しかし、その意識を還元する仕組みづくりに「消費者への誠意が欠けていたため」に両社とも廃業に追い込まれたのです。この「消費者をないがしろにする意識」こそが企業にとっての大きなリスクなのです。
法律を守ることはCSRそのものではありません。法治国家に所属する企業として当然のことです。もちろん経営者としては社員にもその意識を徹底させることで自分たちの顧客の安全を守るというような観点でのCSR的視点は必須です。
その法律を守ろうとする組織体質の維持と同時に、リスク管理として行わなければならないことは、社員に対して「わが社は社会の中でどうあるべきか?」 という意識を徹底させることです。
これは大きく見れば、会社の理念と同じ場合が多々あろうかと思いますが、もっと具体的な表現に落とす必要があります。リスク管理的な視点からは「自分がお客さんだったら何をして欲しくないか」を社員と共有するのも一つです。
直接的な利益に結びつかないリスク管理はコストとのバランスが常に問題視されますので、どれだけの低コストでリスクを減らせるのかがポイントになります。
そこで、「客としてこれはして欲しくない」ということを挙げることで、必要最低限の自分たちが取り組むべき課題を浮かび上がらせ、それを徹底すると同時に、さらなるサービス向上の余地があるのであれば、それを高めることで、結果としてリスク管理だけでなく、顧客満足度も上げることができます。
この、最も重要なステークホルダーである「お客様に対して自分たちはどうあるべきかを社員全員で具体的に共有する」ことは、働く社員一人一人の行動に大きな影響を与えます。
なぜならこれは「会社のミッションを社員と共有している」からです。
記憶しておくべきは、不祥事を起こす会社の多くが外部からの指摘ではなく、内部告発によって瓦解していくケースが多いこと、また、会社に忠誠を誓う真面目な社員が会社として行ってはならないことを会社のためにしてしまった結果、会社が潰れるというケースが多いことの二点です。
これらは、両方とも「良心」から行っているのですが、「社会に向いた良心」か「会社に向いた良心」かの大きな違いがあります。
言うまでもなく守るべきは「社会に向けた良心」であり、これが社会的責任に結びつく考え方そのものです。
会社として社会に対してやってはならないことは行わないということを社員と共有できれば、それだけでリスク管理上は相当なリスクを減らすことができるのです。
CSRは、自分たちを守る盾の役割を果たしてくれるものでもあるのです。
※念のためですが、ミートホープのように組織のトップが腐敗している場合、CSRも何もあったものではありませんので想定から除外しています
■ここがポイント■
1.法律遵守だけでは会社は守れない
2.「消費者をないがしろにする意識」こそが企業にとって大きなリスク
3.CSRへの取り組みはリスク管理上も有効
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