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人口3500人の小さなフランスのまちが給食で経済を回す!?

パリ南西約130kmに位置するラループ市(La Loupe)。
2022年に視察訪問を実施いたしました。

ラループ市の主力産業は農業。このまちでは給食の改革が行われていました。
私たちは、この取り組みが日本の自治体が目指すべき未来のひとつなのではないかと注目しています。

ラループ市はパリから車で約2時間半のまちです。大きな販路としてパリという一大消費地を持ちながら、ラループ市内では有機野菜の質と流通量を上げ、市民の健康と経済を守る活動を給食制度の一環で産官学が一体となり連携して取り組んでいました。

ラループ市とパリからの距離を示す地図

今回お話を伺えたのはラループ市議員のジェルデさん、ラループ市と連携を組んでいる隣町の中都市にあたるシャルトル市議員のジラルドさん、そしてラループ市の有機農業と給食制度の改革の中心人物となるジャンヌビアルさんです。

ラループ市の風景

フランスの給食を変えた法律の存在

フランスで2018年に施行されたエガリム法。
農産物の価格が上がらず生産コストだけが高騰する中で、生産コストに基づいた適正価格を目指し、持続可能で高品質な野菜の流通を保護するために策定された法律です。

エガリム法により、学校給食に20%のオーガニックを含む50%の高品質の食材を取り入れるという大きな目標の元、年間35億食にもなる給食や病院食などにオーガニック食材の使用が義務化されました。

ジャンヌビアルさんによれば、この法律をきっかけにラループ市の給食制度にも大きな改革が起きたとのこと。

ジャンヌビアルさんが話している

「ラループ市では年間約40トンのオーガニック野菜が使われるようになり、この量を扱えるようになると小規模農家にとっては一つの大きな販路になります。約30箇所の給食センターでは5,000~6,000人の人に給食を提供しており、市内のオーガニック野菜の流通量が増えました」

しかし、法律が出来たからといって有機野菜そのものの生産量が急に上がるわけではありません。そのため有機野菜の流通量を増やして給食に利用するという流れをつくるには紆余曲折があったとのことでした。

給食の「味」にもこだわる

有機野菜を使うことも大切ですが、給食は何といっても美味しいことが大切です。それは子供たちの毎日の幸せを育むとともに、食育にもつながります。

ラループ市ではシェフが有機野菜をふんだんに用いたメニューを日々開発し、調理しています。

今回訪問させていただいた際に、ちょうど栄養価も考えたデザート開発を試行錯誤されていた真っ最中でした。

 

下の写真のスイーツ、主となる食材は何か想像がつきますか?

四角く切られたケーキ

正解は…白インゲン豆!

 

私たちはいくつもお野菜の名前を上げましたが、全く正解することが出来ませんでした…。
ほどよい甘さで、食べ応えもあって、非常に美味しくいただきました。子供たちの人気メニューの一つになっていくのだと思います。

有機野菜を給食に取り入れようとする動きは日本でも見られますが、エガリム法のような制度化が進んでいない日本では給食の現場に有機野菜を導入するということ自体が非常に難しく、企画が頓挫してしまう事例も数多くあります。しかし、法律があるからといって一朝一夕にそのような取り組みが進むわけでもありません。法律を活きたものにするために、今回の訪問でコーディネーターとして活躍されているジャンヌビアルさんが果たしている役割が、非常に重要であることが見えてきました。

日本も農林水産省が2050年までの目標として「みどりの食料システム戦略」を策定、有機農業の推進をさらに進めるために日本も見習うべきと、エガリム法が施行されたフランス自治体への視察がスタートしています。

農と食から地域を強くするラループ市のアソシエーション

議員さんたちが会議室でお話しする様子

「有機野菜の供給量を増やす活動は小規模農家さんからの声がきっかけでした」
そうお話しされるジャンヌビアルさんは非営利団体の運営を通して給食の改革を進めています。EUや州からサポートを受けながら、ラループ市の生産者、シェフ、市民、そして議員や民間企業をコーディネートし、「給食を通して有機野菜の供給量を増やし、市内の経済循環を促進する」というゴールに向かってアソシエーション(※)を動かしています。
今では地域の生産者さんにとって、”給食”は一つの販路として魅力ある選択肢の一つとなっています。

 

「プロジェクトを円滑に動かすための1番の課題はロジスティックスを担える人がいないことでした。生産者とシェフを繋ぐためにも、オンラインでプラットフォームを立ち上げることから始め、関係者を繋ぐためにカタログなどを発行してコミュニケーションを促すことを大事にしています。またお互いの理解が深まるよう、シェフには有機野菜をまず食べて美味しさ知ってもらい、調理方法を育成するプログラムなども作成しています。」
とジャンヌビアルさんはお話しくださいました。

 

トラックが停車している
市内の有機食材を集めるトラック

ラループ市では20年前からセントラルキッチンが主流になり、効率性が求められるようになっています。そのような中で、市内の有機野菜を活用することは給食メニューを開発し調理を進めるシェフにとっては簡単なことではありません。

そのため、ジャンヌビアルさんがコーディネートしているのは生産者とシェフだけではなく、市民とのコミュニケーションがとても重要な要素となっているとのことでした。

「私たちは今日この機会をジェルデ議員、ジラルド議員がセッティングしていただいたように、議員の皆さまとも協力体制が組めています。意思決定のスピードを上げながら市民とのコミュニケーションをとても大切にしています。」

今回の訪問でジェルデ議員、ジラルド議員、ジャンヌビアルさんのみなさまが口を揃えて何度もお話しされたことがあります。

「このプロジェクトは20年くらいで進めるべき長期プロジェクトです。すぐに結果が出ることではありません。しかし、みんなで同じ方向を見て長期的に協力体制を組むことがとても大切なのです」

ラループ市の取り組みは、地域の生産者、シェフ、市民、そして議員や民間企業が一体となり、長期的な視点で進められています。​給食を軸にした地域経済の循環は、一朝一夕で実現するものではありません。しかし、同じ方向を見据え、協力を重ねることで、持続可能なまちづくりが形になっていくのです。​こうした挑戦から学びながら、日本でも地域に根ざした食と農の未来を考えていきたいと思います。 

※アソシエーション:共通の目的や関心をもつ人々が、自発的に作る集団や組織。