岩手県で活動をはじめてから5年目を迎えた。ここで生活を営み、さまざまな方とお話していると、自殺についての話題になることがある。先日も、岩手県は他県と比べて自殺率が高く、2024年も全国ワースト1位を記録してしまったと報道があった。東北地方は自殺者数が多い。
全国紙でも、先週、小中高生の自殺者数が暫定値で527人となり、過去最多となったと報道があった。当事者が悩みを相談できる環境をさらに整えていくことは当然必要である。一方、私は原体験から、「当事者の周囲の人間が異変に気がついたときに、どうしたらいいか」ということについて、もっと社会で考えていくべきだとも感じている。
ある日、私の友人(Aさん)が泣きながら私に電話をくれた。
「私の幼馴染(Bさん)が自殺をほのめかす発言を続けている。私はその度に話を聞くのだが、幼馴染が「死にたい」と言っていることが悲しく、もう耐えられない」
Aさんは、ひどく取り乱していた。Bさんが口止めを要求するせいで、周囲には打ち明けられず、何もできない苦しみを抱えていた。とうとう限界を迎えて、Bさんと面識のない私にSOSを出してくれたのであった。
私は全くどうしたらいいかわからなかったが、2人とも守りたい、という思いだけは強く感じ、電話を切った。
それからというもの、「自殺したいと言われたらどうするか」という視点で情報を集めた。そこには、話の聞き方の工夫や、専門機関に行くように進める、といった助言が書かれていた。しかし、Bさんの話は十分に聞いているし(むしろ聞きすぎてAさんが疲弊してしまっている)、専門機関に行くようにBさんに進められる状況でもなさそうだった。具体的な方法が見つからず、手詰まりを感じた。
考えた挙句、「いのちの電話」など、悩んでいる当事者が使用することが想定されているサポートに、私自身が片っ端から連絡した。ようやく1つ電話がつながり、「私の友人の幼馴染が死にたがっているのだが、こういう時はどうしたらいいのか」と相談した。相談員の方は本当に丁寧に話を聞いて状況を理解してくださった。そして、多数の事例や経験などから、「今回のケースにおいてはBさんの家族にBさんの状況を伝えるべき」という具体的な助言をくださった。私はすぐにその旨をAさんに伝えた。後日、「Bさんの状況が改善され、私もだいぶ楽になった」とAさんから連絡があった。
この一連の経験を通して、当事者の周囲の人間が異変に気がついたときにどうすればいいかについて、これまで、考えたことも、見聞きしたこともなかったということに気がついた。
実際、長野県では子どもの異変に学校等が気がついた時に、精神科医や弁護士らでつくる「危機対応チーム」が助言を行う体制があるそうだ。こういったことをもっと周知したり、広げたりしていく活動は重要だと思う。
「救急車を呼ぶかどうか迷ったら#7119に電話する」ことが広く知られ始めたように、自殺につながる異変に気がついた人が次に取る行動をもっと社会全体でデザインすることができれば、自殺者を少しでも減らすことができるのではないだろうか。
株式会社sinKA 村山
◾️長野県 危機対応チーム
https://www.pref.nagano.lg.jp/hoken-shippei/zisatsukikitaiou.html
◾️厚生労働省 電話相談
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/jisatsu/soudan_tel.html