ヨーロッパ最大の農業大国と呼ばれるフランスの地方の農業の仕組みについて、現地を訪問し、調査してきました。
フランスってどんな国?
フランスは、人口が約6,790万人で日本の約半分、面積は54.4万㎢で日本の1.5倍ほどなのですが自治体数は30,000以上と日本の自治体数の1700と比べると17倍あります。
これらの数字から見ると、フランスは日本と比べて国土は広いものの人口は少なく、自治体数がとても多い国ということになります。
この特徴からもフランス国民は自治意識が強いということがわかります。これはフランスの歴史的な経緯が影響していると言われていますが、そのような各自治体はそれぞれ独自の政策を行っています。
そのようなフランスの自治体の中に、当初3種類の野菜しか育てていなかった小さな自治体が世界中から農業視察に訪れるまでに大きくなった自治体があります。「サン=ポル=ド=レオン(Saint-pol-de-Leon)」という名前のブルターニュ地域にある人口約6,700人の小さな町です。
このサン=ポル=ド=レオンを訪問し、その成功と試行錯誤のストーリーを伺ってきました。
60年前に地元の人が立ち上げた農業共同組合が、地方の農業を押し上げ、フランス最大の農業地になった
サン=ポル=ド=レオンは、イギリスとの間にある北海に面し、パリから西におよそ550km、ちょうど東京から神戸と同じくらいの距離にあります。パリからは特急列車で約4時間、車で約6時間かかるという決して都市部とのアクセスが良いという場所ではありません。


そのため、サン=ポル=ド=レオンは昔から「どこへ行くにも遠い」という課題を抱えていました。
当然、物流にも影響を与えていました。この長年の課題を解決しようと、1961年に地域住民の機運が高まり、1人の野心的な地元の男性が「SICA(シカ:Société d’Initiatives et de Coopération Agricole)」という農業協同組合を立ち上げました。
SICAの長年にわたる様々な取り組みが功を奏し、今やサン=ポル=ド=レオンはフランスで1番の野菜産地として知られ、農業は町の雇用の8割を占めるようになり、国内外から多くの方々が農業視察に訪れる町となったのです。その影響もあり、最近ではUターン者が増加するだけでなくIターン希望者もいるとのことでした。
農業協同組合「SICA」とは
SICAは「生産者のため、ブルターニュ地域のため」を目的とした協同組合で、現在、632件の農家が登録しています。経営はこれらの登録農家が中心となって運営しています。
SICAの主なサポート内容は、立地的にどこからも離れていて輸送が難しいという課題を解決するための生産・梱包・販売です。


SICAの取り組み①品質を保証する「野菜ブランド」を確立
SICAでは、「Prince de Bretagne」という、ブルターニュ地域の北海岸で作られたことを証明するブランドづくりに取り組んできました。
このブランドマークがついた野菜はフランス全土のスーパーで販売されています。このブランドロゴマークが浸透してきたことで、どこで誰がどのように作ったものなのかが、卸売業者はもちろん消費者にも一目でわかるようになっているのです。





SICAの取り組み②卸売業者を介しながら販路を拡大
SICAでは登録農家が生産した野菜などを一旦集約し、そこから卸売業者に販売しています。近年はリアルな市場でのやり取りではなく、オンラインで卸売業者との契約が完結するようになっているとのことでした。
なぜ卸売業者は野菜を実際に目で確認せずともSICAから野菜を仕入れることができるのでしょうか?
その秘密こそ、「Prince de Bretagne」のブランドの信頼にありました。
このロゴマークがついていることで、この地域で生産された野菜であることが証明される、つまり「品質が保証」されているので、実際に目で見なくても安心して購入することができるのです。
こうしてSICAは、設立当初の1960年代に10社だった卸売業者との取引が、2010年代には50社、今では80社まで増加しているとのことです。
SICAの職員は現在130名、人口6,700人の町ということを考えるとこれだけでも多いように感じますが、もし卸売業者を介さずに全てSICAが直接販売しようとすると、あと200人の職員が必要になるそうです。それだけたくさんの生産物が作られていると同時に、いたずらに組織を大きくせず、自分たちでやるべき部分と「強み」を持った他者と協力する部分のバランスが取れていると言えそうです。
次の記事では、SICAが取り組んでいる農業研究施設について紹介します!