※弊社代表の町井による「オルタナ総研所長コラム」
◼タイトル
自然保護への「質」が企業のあり方を左右する
https://www.alterna.co.jp/172126/
■記事のポイント
脱炭素がGXで経済政策化したように、生物多様性にも同様の転換が必要だ
一方、環境保全経費全体に占める生物多様性関連の予算の割合はわずか5%
生態系への依存や影響など自然保護への「質」が企業のあり方を左右する
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脱炭素がGXによって環境政策から経済政策化したように、生物多様性にも同様の転換が必要だ。一方、環境保全経費全体に占める生物多様性関連の予算の割合はわずか5%に過ぎない。生態系への依存や影響など自然保護への「質」が企業のあり方を左右する。
2026年4月、令和8年度の一般会計予算が過去最大となる約122兆円で成立した。政府は「責任ある積極財政」の考え方のもと、予算全体にメリハリをつけ、「強い経済」の実現を目指すとしている。
では、その中でサステナビリティ関連予算には、どのような重点配分がなされたのだろうか。
■環境保全経費は昨年比40%増に
環境省が取りまとめている各省庁の環境保全経費を見ると、令和8年度の総額は3兆2835億円となり、令和7年度当初予算の2兆3456億円から約40%増加した。一般会計予算全体の伸びが約6.2%であることを踏まえると、環境関連予算の伸びは際立っている。
環境保全経費は、脱炭素やGXを含む「地球環境の保全」、国立公園の維持や鳥獣被害対策などを含む「生物多様性の保全及び持続可能な利用」、道路環境改善や下水道事業などの「水環境、土壌環境、海洋環境、大気環境の保全・再生の取組」など、7項目に分けられている。
このうち、総額を大きく押し上げているのが、脱炭素やGXを含む「地球環境の保全」である。同項目は昨年度から9452億円増加し、約2.3兆円となった。環境保全経費全体の約7割を占めており、増加分の大半もこの分野によるものだ。
■環境保全の最大の担い手は環境省から経産省に
■生物多様性の優先順位は低いまま
■サステナ経営は自然資源があってこそ
さらに象徴的なのは、省庁別の内訳である。2023年までは、環境保全経費に占める割合は環境省が最も大きく、43%を占めていた。しかし2024年からは一転して経済産業省の割合が最も大きくなり、令和8年度には58.2%にまで高まった。環境保全経費の最大の担い手が、「環境省から経済産業省へと移っている」のである。これは注目に値する動きと言えるだろう。
ここから浮かび上がるのは、脱炭素がもはや「環境政策」にとどまっていないという構図である。GXという言葉を通じて、脱炭素は産業競争力、エネルギー安全保障、サプライチェーン、国内投資、地域のレジリエンスといった経済政策の中核に位置づけられるようになった。
環境を守るための政策から、成長をつくるための政策へと「脱炭素」は、政策上の意味を大きく変えつつある。
実際、令和8年度予算におけるサステナビリティ関連施策の重点は、単なる環境保全というよりも、脱炭素・GXを軸にした成長投資へと大きく寄っている。
再生可能エネルギー、省エネ、水素、蓄電池、次世代燃料、資源循環、脱炭素型の地域づくりなどは、いずれもCO2削減にとどまらず、産業基盤や地域経済の再構築と結びついている。
■生物多様性の優先順位は低いまま
一方で、気になるのが「生物多様性の保全及び持続可能な利用」である。同項目の予算は1621億円で、7項目のうち4番目に大きいものの、昨年度からの増加額は16億円にとどまる。環境保全経費全体に占める割合も約5%である。これに対し、脱炭素・GXなどを含む「地球環境の保全」は約70%を占めている。
もちろん、単純な金額比較だけで政策の重要度を測ることはできない。生物多様性に関する施策は、環境省だけでなく、農林水産省、国土交通省、林野庁など、複数の省庁にまたがって進められている。
国立公園、森林、里山、鳥獣被害対策、水源涵養、海洋環境、都市緑地など、現場に近い政策領域とも深く関わっている。
それでも、予算全体から見える重心の違いは明らかである。脱炭素は、GXとして経済政策化され、成長投資や産業競争力の文脈に組み込まれたことで、一気に加速した。一方、生物多様性は重要性が高まっているにもかかわらず、政策上はまだ従来型の自然保全や国土管理の枠にとどまっている面が大きい。
気候変動と生物多様性は、本来、切り離して考えることのできない課題である。気候変動は生態系に影響を与え、生態系の劣化は気候変動への適応力や吸収源としての機能を弱める。にもかかわらず、政策や企業経営の現場では、脱炭素に比べて生物多様性の優先順位はまだ十分に高まっていない。
■サステナ経営は自然資源があってこそ
では、生物多様性も、脱炭素と同じように経済政策化していくのだろうか。
その兆しはすでにある。自然資本やTNFDへの関心が高まる中で、企業は自然への影響だけでなく、自然への依存を把握することを求められ始めている。
水、森林、土壌、海洋、生物資源、地域の生態系サービスなどは、多くの企業活動の前提となっている。それにもかかわらず、それらは長らく「外部環境」として扱われ、経営資源として十分に認識されてこなかった。
日本企業はすでに、TNFDへの対応において世界でも存在感を示している。だからこそ、これから問われるのは、開示企業数の多さではなく、その中身となる。生物多様性を「守るべき自然」の話にとどめるのではなく、「持続可能に経営し続けるための前提」として捉え直すことが求められている。
自然への影響や依存を、事業リスク、投資判断、調達戦略、地域との関係性、そして新たな成長機会といった経済の言葉にどう翻訳できるか。近い将来において、この質こそがこれからの日本企業の立ち位置を左右していくことになる。
脱炭素がGXによって経済政策化したように、生物多様性もまた、自然保護の領域から経営戦略の領域へと移行できるのか。次のサステナビリティ経営の焦点として、これは今後さらに重要となっていく。