※弊社代表の町井による「オルタナ総研所長コラム」
◼タイトル
観光産業の「社会的価値」、分断の時代だからこそ見直そう
https://www.alterna.co.jp/167659/
■記事のポイント
日本へのインバウンド観光客数が過去最多を更新し、4200万人を超えた
外国人観光客との交流は、日本の文化や価値観を再発見する機会となり得る
「分断の時代」だからこそ、観光産業が持つ社会的価値を見直そう
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2025年の訪日観光客数が過去最多を更新し、4200万人を超えた。訪日観光客との交流は、日本の文化や価値観を再発見する機会となり得る。「分断の時代」だからこそ、観光産業が持つ社会的価値を見直すべきだ。
2026年が明けて一か月も経っていない中、世界は政治、経済、安全保障、テクノロジーなど様々な分野において緊張や対立が深まり、分断が強まっている。
これらの動きは、国家間の対立や社会の分極化、情報空間における情報の偏向や断絶などが一過性の現象でなく、私たちが構造的な「分断の時代」に足を踏み入れてしまっていることを示している。
人は直接的な接点を持たない存在に対し、断片的な情報やステレオタイプによって理解したつもりになりやすく、対話よりも排除、共感よりも自己正当化を選びがちとなり、時として残酷さを露呈する。
そして、このような相互理解が失われた状態の中では、国際協力は単なる理念にとどまり、実効性を持ち得ないため、SDGsが重視する「パートナーシップ」の基盤そのものを揺るがすこととなる。
■旅がもたらす身体的な異文化理解
■日本人のパスポート取得率は先進国で最低水準に
■観光が人と人、社会と社会をつなぎ直す
この分断を乗り越えるべく国際法の遵守や制度策定などがあらためて叫ばれている。これらの取り組みはもちろん必要である。
だが、個々人のレベルで言えば、人と人とが異なる価値観や文化を持つリアルな存在であるという当たり前の事実を、身体的な実感を伴って捉えられるようになることも同時に重要となる。
これを産業的な視点で考えると、海外旅行、すなわち他国への旅が体験価値として存在感を高めているように思う。
観光は消費的・娯楽的なものとして語られる場合が多い。だが、本来の旅は、異なる世界に身を置くことで自らの前提や常識を相対化する体験を得ることに価値がある。
言語の壁はもちろん、社会インフラや生活様式、生活リズムの違い、宗教や歴史に根ざした価値観、日常の振る舞いなどの細部に直接触れることで、他国の人々が抽象的な存在ではなく、同じように生活し、悩み、喜びを抱える具体的な他者であることを実感する機会となる。
こうした実感を伴う理解は、SNSや映像、書籍といった間接的な情報接触では代替し得ない貴重な人生の糧となるものである。
■日本人のパスポート取得率は先進国で最低水準に
しかし現在の日本社会を見ると、パスポート保有率の低下に象徴されるように、多くの日本人が国外に出ることに心理的・経済的なハードルを感じ、関心がより内向きになりつつある。
もともと日本人のパスポート取得率は先進国の中でも最低水準であり、さらに生活不安や将来への不透明感が行動を狭めている現実も否定できない。
しかし、そのような時代だからこそ、海外旅行は個人的な余暇や贅沢を超えた社会的意義を強めている。分断が進む世界において、他国を自らの身体と時間を使って知ろうとする行為そのものが、小さくとも確かな対話の実践である。
そのことが市民レベルでの国際理解であり、未来への投資だ。このような旅を通じて育まれる他者への想像力は、長期的に社会の対話力を底上げすることにつながっていく。
そのような中、日本へのインバウンド観光客数が過去最大を更新し、4200万人を超えた。世界中から多くの人々が日本を訪れ、その独特の生活や文化、歴史、価値観を理解しようとしている。
■観光が人と人、社会と社会をつなぎ直す
この非対称な状況は、単なる観光需給の問題ではなく、相互理解のあり方を再考する重要な示唆を含んでいる。日本人が世界に出ていく動きが鈍る一方で、世界は日本に関心を持ち、学び、体験しようとしている。
このような日本を訪れる外国人観光客との日常的な接触や交流は、日本人にとっても自らの文化や価値観を相対化し再発見する機会となり得る。この点で、日本社会が世界と直接向き合い、対話するための貴重な接点として機能している。
これらを踏まえると、分断の時代における「観光」は、単に人を動かすことで余暇の充実を提供する産業ではない。人と人、社会と社会をつなぎ直し、相互理解の基盤となる社会的インフラであり、今、その価値についてあらためて定義され直すべきであるように思う。